コラム

「ワークショップの視点」で働きがいを高める

#キャリアオーナーシップ #働きがい

今回のコラムでは、まずワークショップのエッセンスについて、いくつかの考え方をご紹介します。その上で具体的な実践事例と紐付けながら、職場の働きがいを高める上で、ワークショップの視点をどのように生かすことができるかを考えていきたいと思います。

ワークショップという言葉が近年社会に浸透し、キャリアデザインや組織開発などの現場でも使われるようになってきました。

皆さんは「ワークショップ」をどう捉えていますか? 研修とどう違うのでしょうか?

推せる職場ラボでは、「働きやすさ」だけでなく「働きがい」を高める実践を探究しています。
その中で気づいたのは、成功している取り組みの多くに 「ワークショップ的な視点」 が生かされているということです。

ちなみに取材先の皆さんが必ずしもワークショップという場を開催しているわけではなく、おそらく無意識のうちに「ワークショップのような」進め方をしており、私自身も共感し刺激を受けてきたという感覚に近いです。

その感覚を手掛かりにしながら、今回のコラムでは、まずワークショップのエッセンスについて、いくつかの考え方をご紹介します。その上で具体的な実践事例と紐付けながら、職場の働きがいを高める上で、ワークショップの視点をどのように生かすことができるかを考えていきたいと思います。

「ワークショップ」のエッセンス

現場の視点からワークショップやファシリテーションについて長く探索してきたデザイナーの西村佳哲氏は「かかわり方のまなび方」という書籍の中で、ワークショップ(工房)を、対義語としてのファクトリー(工場)と比較しながら、このように書いています。

ファクトリー(工場)の特性は「何をつくるか?」があらかじめ決まっている点にある。そして、それを効率よく、高精度に、間違いなく生産するためのラインが設計され、稼働する。
一方ワークショップ(工房)では、「何をつくるか?」は、あらかじめ決まっていない。少なくとも設計図のたぐいはない。そこには素材があり、道具があり、「少しでもいいものをつくりたい」意欲を持つ職工が集って、互いに影響を与えながら働く。そしてつくり出すべき「なにか」が、その場で模索されてゆく。
西村佳哲(2014)「かかわり方のまなび方」ちくま文庫  p209より引用

この比較によって浮かび上がってくるワークショップのエッセンスは、私も腹に落ちるものがありました。
西村氏の「かかわり方のまなび方」を参考に、ワークショップの特徴をファクトリーとの違いに着目しながら整理すると以下の図のようになります。

ファクトリー(工場)ワークショップ(工房)
大量生産をすることが前提創造的であることが前提
何をつくるか(ゴール)が決まっている何をつくるか(ゴール)が最初は決まっていない
失敗を極力減らす失敗から改善する(試作を重ねる)
効率的で無駄のないプロセス対話と相互作用のあるプロセス
システムや仕組みが中心人間や素材が中心

西村佳哲(2014)「かかわり方のまなび方」ちくま文庫  p208-211を参考に筆者作成

ここでは工場より工房が優れていると主張したいのではなく、あくまで工房(ワークショップ)の特徴を見出すために、このような整理をしています。

例えば、何をつくるか何を学ぶか、一部分は決まっているようなワークショップも世の中には存在し、逆に全ての工場が試作や失敗を許容していないとも言えません。あくまで程度の問題であり、一つの考える物差しとして、上の表を参考にしながらこの後の議論を進めていきたいと思います。

職場での実践事例から考える

では、ここまで考えてきたワークショップのエッセンスは、職場の働きがいを高める実践と、どのような関係があるのでしょうか。

例えば、推せる職場ラボで取材を行った株式会社エッジコネクションでは、働きがいを高めるために「社内発注制度」という独自の制度を10年以上前から運用し、今も現場の声を反映して制度を改善しています。

まさにシステムや仕組みが中心ではなく、人間を中心に仕組みをつくる姿勢は、上に整理したワークショップのエッセンスに繋がります。また制度にはエラー(失敗)が出てくるものであり、みんなで創造的につくり直していくという前提が共有されているからこそ、このような改善が続いてきたと思われます。

◆株式会社エッジコネクション インタビュー記事

これ以外にも様々な事例があります。例えばNECソリューションイノベータ株式会社は、エンジニアのプロジェクトアサインを管理職主導で行うだけでなく、手挙げ性のプロジェクトアサイン制度を導入し、管理職とメンバー双方が納得できる働き方、キャリアデザインを模索しています。
これもプロジェクト(システム)と、メンバー(人間)の主従関係を超えて、対話と相互作用のあるプロセスから、1人ひとりの働きがいを模索している事例であると思います。

◆NECソリューションイノベータ株式会社 インタビュー記事

やはり様々な職場の取り組みを取材させて頂く中で感じるのは、全ての施策が最初から上手くいくわけではなく、失敗から試行錯誤を重ねていく中で、その組織らしい取り組みや制度が育っていくということです。
そして最初から上手くいかないという前提に立つからこそ、周囲の人が関わる余白が生まれ、自分も取り組みに参画しているという意識や、働きがいの向上に繋がっていくのではないかと思います。

このようにワークショップの視点も意識しながら、「何をするか」だけでなく「どう進めるか」、我々自身も改めて考えていきたいと思います。

山野 靖暁

東京藝術大学大学院美術研究科修士。
大学卒業後、(株)シェイクにて企業の人材育成や組織開発のコンサルティングに従事。
その後、島根県海士町で地方創生や教育事業を推進。
現在はコミュニティデザイン・マネジメント領域の研究を行いながら、
国内外で企業や大学連携のプロジェクトを手がけている。

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