インタビュー

地域との接点が社員の持ち味を引き出す

RAIL HUB SHIZUOKAの挑戦

#推せる職場づくり

静岡の鉄道設備会社、協和電工が始めた共創スペース「RAIL HUB SHIZUOKA」。 地域社会とのつながりを深めるため、本社のワンフロアを市民に開放する挑戦が始まりました。 ワークショップを通じて、社内外へ活動の輪が広がっています。 社員一人ひとりの「好き」が地域とつながり、仕事への誇りや新しい活気が生まれていく。そんな変化と、これから広がる可能性を紐解きます。

職場において、1人ひとりが「働きがい」や仕事の「やりがい」を感じるためには、日々の「貢献実感」や「成長実感」が欠かせません。では、その実感はどのように生まれていくのでしょうか。

今回は、鉄道設備事業を手がける協和電工株式会社が取り組む「RAIL HUB SHIZUOKA」のプロジェクトから、地域社会との接点を生み出し、社員の貢献・成長実感が生まれるプロセスについて考えます。

取材に応じてくださったのは、協和電工株式会社 代表取締役社長の野田祐輔氏(以下、野田)と、プロジェクトに伴走してきた静岡大学サステナビリティセンター 特任准教授の天野浩史氏(以下、天野)。

同社の本社ビル5階を市民開放型の共創スペースとして活用する「RAIL HUB SHIZUOKA」の試みは、社員と地域社会にどのような変化をもたらすのでしょうか。経営者と専門家、それぞれの視点から紐解きます。


RAIL HUB SHIZUOKAの原点

まず「RAIL HUB SHIZUOKA」の構想が、どのような経緯で始まったのかお聞かせ下さい。

野田:
きっかけは、静岡駅近くにある本社ビル5階のスペースが空いたことでした。この場所で市民の方々を巻き込みながら、何か新しいことができないかと考えました。当初は鉄道カフェや自社の技術を展示するミュージアムとしての活用も検討していました。
そんな時、知人を通じて「共創スペース」という考え方を知り、天野さんをご紹介いただき、昨年、本格的に動き出しました。

なぜ市民の方を巻き込んだ取り組みにしたいと考えていたのでしょうか。
野田:
大きく影響していることの一つが、2022年の台風(静岡豪雨)での経験です。当時は停電や断水が続く厳しい状況でしたが、鉄道事業者様から災害復旧の要請があった際、連絡を回す前から、社員が自発的に会社へ集まっていました。ご家族が「今こそ、あなたが行かなければならない」と送り出してくれたと聞き、社員だけでなく、そのご家族の支えによって、この業界全体が成り立っていることにあらためて気づかされました。

一方で、私たちの仕事は社会に欠かせない「縁の下の力持ち」であるにも関わらず、社員と地域社会の接点が希薄であることを残念に感じていました。

そこで数年前、社員の子どもたちを対象にお仕事体験会を自社で開催しました。社員が誇らしげに子どもたちに教える姿を見て、とても嬉しく感じたことを覚えています。その後、地域でのお仕事体験講座にも関わらせていただき、市民の方と接点を持つことが社員の活力になると実感しました。そうした経験が、市民開放型の共創スペースをつくる今回のプロジェクトにもつながっていると思います。

天野さんは、どのようにプロジェクトに関わり始めたのでしょうか。

天野:
知人を介して野田さんをご紹介いただき、最初にお会いしたのが昨年7月頃でした。その際に、共創スペースの事例などをいくつかお話ししたところ、野田さんや、社員の皆さんが興味を持ってくださいました。

特に印象に残っていることが、ある総務部の社員の方が「共創スペースは、完成させなくていいものなんですね」とおっしゃったことです。「完成したスペースを運用していくのではなく、みんなでつくり続けていく」という前提が、自然とその場で共有されたことが今も印象に残っています。

そこから、「自分だったら共創スペースをどのように使ってみたいか」「どんなことが起きたら嬉しいか」といった対話が生まれ、ワークショップ*の実施につながっていきました。

※ワークショップ:RAIL HUB SHIZUOKAの開設に向けて行われた対話の場。
 詳しくはこちらから

ワークショップを通じて見えた社員の変化

ワークショップを企画、実施するにあたって、どのようなことを意識されていましたか。

天野:
協和電工の皆さんが、どれだけ楽しんでこの場をつくることができるか、この場所の意味を自分たちでつくり続けていくことができるか、という点が大事だと思っていました。

そのため、会社視点だけで考えるのではなく、自分の「好きなこと」や「大切にしていること」も出せる場にしたいと考えました。そこで、「自分が」という主語で語ることをワークショップのグラウンドルールにも設定しました。

初回ワークショップ時のアイデア

天野:
もう1つ意識していたのが、多様な人に関わってもらうことです。共創スペースはさまざまな方が集まって使う場になります。だからこそ、アイデアを考える段階から外部の方に入って欲しいと考え、最初のワークショップには私の友人を2人誘いました。

野田:
最初は社員にも戸惑いや堅さがあり、外部からの参加者との間にぎこちなさを感じる場面もありました。しかし、少しずつ表情が和らぎ、自分の楽しみや困りごとが社員から出てくるようになりました。

天野:
ワークショップに参加した人が、また次に参加する人を連れてくる形で輪が広がっていることも印象的です。現在もSNSなどで積極的に認知を広めるのではなく、アナログなつながりから参加者が増えていく形になっています。第3回からはワークショップから「ワークデイ」に名前を変え、チームごとにアイデアを具現化していく段階へ移っています。

第2回ワークショップではアイデアをプロジェクトに具体化

現在、どのような企画が動き始めているのでしょうか。

天野:
ゲストのお話を聞いて旅行計画を立てる「旅に出たくなるBar」や、地元の大学生と連携して、鉄道や乗り物好きの子どもたちが遊んで学べる「テツラボ」といった企画が動き始めています。私自身も「ガチャン庫」というRAIL HUB SHIZUOKAの運営の仕組みを考えるプロジェクトに関わっています。

野田:
「旅に出たくなるBar」では、ワークショップに途中から合流した1人の女性社員がバーテンダー役を引き受けてくれました。彼女が前向きに楽しんで取り組む姿に私も刺激を受け、とても嬉しい気持ちになりました。

天野:
先日「旅に出たくなるBar」のお試し企画を実施しました。4月に控えるRAIL HUB SHIZUOKAのオープニングイベントでも、さらにバージョンアップした形で開催しようという話が進んでいます。私も当初は予想しなかったことがたくさん起きています。

第0回「旅に出たくなるBar」の実施風景

このプロジェクトが、社員の皆さんの日々の「働き方」や「働きがい」に影響を与えている部分はありますか。

野田:
普段仕事では出会わない人と交流し、自分たちの取り組みを知ってもらえることは、社員にとって純粋に嬉しいことだと思います。同時に、地域の方が協和電工という会社をどう見ているのか、外からの視点に気づく機会にもなります。

天野:
このプロジェクトを通じて、野田さんと社員の皆さんの関係性も変化しているように感じます。日々のコミュニケーションなど、組織に前向きな変化を与えている部分もあると思います。

野田:
部署の垣根を超えたコミュニケーションも増えてきました。以前は、会社主導で社員同士が集まる機会をつくっていましたが、最近は自発的に集まって交流、連携する場面をよく見るようになりました。1人ひとりが本来持っていた持ち味が、RAIL HUB SHIZUOKAを通して少しずつ引き出されてきたように感じています。

最近は中途採用の応募も増えており、このプロジェクトが多少なりとも影響しているのかもしれません。

ワークデイでの対話

民間主導による共創スペースの可能性

このプロジェクトを通じて、地域にはどのような価値が生まれると思いますか。

天野:
まず地域の方にとって、気軽に集まれる場所が増えること自体が価値になると思います。先日もホームページでこの取り組みを知った地域の方から、「共創スペースを使ってみたい」と連絡をいただきました。

静岡でも「起業家育成」や「社会課題解決」など、目的を強く打ち出した共創スペースが増えており、その価値は大きいと感じています。一方で「市民共創」や「社会共創」という文脈で、地域の人が気軽に立ち寄り、会話や新しいアイデアが自然に生まれるような場所も地域には必要です。

RAIL HUB SHIZUOKAでは「ありのままの自分で過ごすことができる」「多様で新しいつながりが生まれる」そんな声が自然と出てくる場になったら嬉しいです。強さというよりも、しなやかで柔らかく、包摂性のある場所を目指していきたいと思っています。

野田:
これから共創スペースでどんなことが起きるのか、正直まだ想像がつかない部分もあります。だからこそ、私自身も社員と一緒にそのプロセスを楽しんでいきたいと思っています。

4月中旬に控える共創スペースのオープンに向けて、今どのような準備を進めていますか

野田:
チームに分かれて、ワークデイなどの時間を使いながらぞれぞれの企画を進めています。ハード面を含め、細かな部分も詰めているところです。

天野:
私は拠点の運営方法など、主にソフト面に関わっています。多様な人が集まり、新しいつながりが生まれるための仕掛けとして、会員制度やコミュニティマネージャーの配置なども検討しています。

多様化する地域社会において、行政だけでは担いきれない領域が増える中で、民間主導の共創スペースの存在は、これからますます重要になってくると思います。一方で、企業が設置する共創スペースをどのように運営・マネジメントしていくかという問いに対して、全国的にもまだ確立されたモデルが少なく、各地で試行錯誤しながら新しい形が模索されています。

RAIL HUB SHIZUOKAは、他地域のモデルになる可能性も秘めているので、持続可能な運営を目指して、私も貢献してきたいと考えています。

今後、どのように共創スペースを運営していきたいですか。

天野:
行政主導の場合は、公平性や平等性が重視されることも多いですが、民間主導の共創スペースだからこそ、制度やルールを利用者の方と一緒につくり、柔軟に運営していくこともできるはずです。その試行錯誤を通じて、既存の施設や制度だけでは出会いにくかった人たちの居場所が生まれ、新しい価値につながると思います。

野田:
今、天野さんとも相談しながら運営方法について考えていますが、社員1人ひとりの強みを活かしながら、各々がやりたいことも実現できるような場所にしていきたいです。

社員それぞれが自分なりの関わり方を見つけていくことを、私も後押しできればと思っています。

皆さんが共創スペースをどのように使い、どんなことを起こしていくのか、これからが楽しみですね。本日は学びの多いお話を聞かせていただき、ありがとうございました。


<協和電工株式会社 会社概要>

協和電工株式会社は、鉄道信号保安設備の設計・施工・保全を中心に、鉄道関連製品の製造や環境事業などを展開する企業です。鉄道・鉄工・環境の3つの分野で培ってきた技術と現場力を強みに、鉄道の安全運行と地域社会を支える事業に取り組んでいます。

社会インフラを支える企業として、地域とのつながりを大切にしながら、安心・安全な社会づくりへの貢献を目指しています。

・協和電工株式会社ホームページ
 https://kyouwa-denkou.co.jp/

・RAIL HUB SHIZUOKAサイト
 https://rhs.jp/

山野 靖暁

この記事を書いた人

山野 靖暁

推せる職場ラボ 研究員

東京藝術大学大学院美術研究科修士。
大学卒業後、(株)シェイクにて企業の人材育成や組織開発のコンサルティングに従事。
その後、島根県海士町で地方創生や教育事業を推進。
現在はコミュニティデザイン・マネジメント領域の研究を行いながら、
国内外で企業や大学連携のプロジェクトを手がけている。

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