前回のコラム(“ホワイト”ハラスメントに向き合う)では、ホワイトハラスメント(ホワハラ)とは上司が部下に過度に配慮することで部下の成長機会を奪ってしまう可能性があること、そしてハラスメントという概念の広がりが、職場の関係性をかえって希薄にしてしまう「心理的安全性のパラドックス」について触れました。
今回はその続きとして、「では令和の管理職は、結局どうすれば良いのか」 という点に踏み込んでみたいと思います。
現場で今、何が起きているのか

あらためて、今の職場で何が起きているのか振り返ってみます。
・ハラスメントを恐れるあまり、難易度の高い仕事を部下に振らない
・部下へのフィードバックが「よくできていたよ」で終わる
・部下が悩んでいるそぶりを見せると、すぐに解決策を教えてしまう
一見、どれも「優しい管理職」の行動です。しかし若手の立場からすると、「自分の能力を伸ばす機会」も「承認される」も奪われている、という受け取り方をされてしまうことがあります。
優秀な管理職ほど陥る2つの罠
一つは、時代の変化と育成の方程式のズレ、もう一つは、自分の成功体験に潜む、気づきにくい盲点のことです。

一つ目:かつては「苦労して育つ」という方程式が成立していたが、その前提が大きく変わっている
終身雇用・年功序列での出世が当たり前だった時代、若手には「今は辛くても、長く勤めれば報われる」という合理的な見通しがありました。会社に人生をかける動機があったのです。しかし今は違います。キャリアの選択肢は多様化。転職は珍しくなく、若者は会社に長く身を置くことを前提に自身のキャリアを考えていません。そして、先が見えない時代の中で、強い不安感を抱えながらキャリアを模索しています。
二つ目:管理職自身が「この苦労のおかげで成長できた」という理由付けは本当に正しいのか?という疑問
ここには生存者バイアスという落とし穴があります。生存者バイアスとは、ある経験をくぐり抜けて「生き残った人」の声だけが語り継がれ、そうでなかった人の声が見えなくなることで、現実が歪んで見えてしまう認知の偏りです。苦労に耐えて成長した人の体験談は語り継がれますが、同じ環境で心身を壊した人、静かに職場を去っていった人の経験は、そもそも語る場を与えられないまま埋もれていきます。
さらに、仮に苦労を乗り越えた経験が本物だったとしても、その成長の真因を正確に分析できているでしょうか。
厳しい局面で支えてくれた先輩、愚痴を聞いてくれた他部門の同期、陰ながら気にかけてくれた社内のメンター。そういった周囲の存在が、実は大きな役割を果たしていた可能性もあります。しかしそれは当時の自分には見えにくく、後から主観的に振り返っても「自分が頑張ったから乗り越えられた」という解釈に収束しやすいものです。
成功体験の要因を丁寧に振り返らないまま「自分はこうやって育った」を再現しようとすると、環境も時代も人間関係も違う今の若手に、同じ方程式が通用しないことがあります。経験をそのまま語ることと、経験を深く分析して部下に伝えることは、別の作業です。
若手が本当に求めているもの

では、令和の若手社員は何を求めているのでしょうか。
それは「承認」と「成長機会」 です。
承認とは、単に褒めてほしいということではありません。「自分の仕事が、誰かの役に立っている」「自分の成長を、ちゃんと見てくれている」という実感です。成長機会とは、難しい仕事に挑ませてもらえること、失敗しても挽回できる場があること、つまり「信じて任せてもらえる経験」と言い換えてもいいかもしれません。
ホワイトハラスメントが問題なのは、こうした承認と成長機会の両方を、善意のままに奪ってしまうことにあります。管理職が守ろうとするほど、若手が求めているものが遠ざかっていく、という構造的な矛盾です。
令和の管理職がすべき4つのこと:伴走する

では、どうすれば良いのでしょうか。
それは「放置でも過保護でもなく、伴走する」 という姿勢です。
①答えを与えるのではなく、部下の話を聞いて、問いを渡す
部下が悩んでいるとき、すぐに正解を教えるのではなく、「何かあった?」「何か障壁になっていそうなことある?」と気にかけ、「どうしたら進むと思う?」と伝えてみる。
大切なのは、管理職が「勝手に問題を特定して、答えを持っている人」として振る舞うのをやめることです。正解をすぐに示してしまうと、部下は「上司に聞けば解決する」と学習し、自分で考えることをやめていきます。一方、問いを渡された部下は、自分の頭で状況を整理し、選択肢を探し、判断を下す経験を積んでいきます。その積み重ねが、やがて「自律して動ける人材」を育てていくのです。
②小さな挑戦を設計する
いきなり大きな仕事を丸投げする必要はありません。「少し背伸びが必要な仕事」を意図的に渡し、その過程を一緒に見ていく。この積み重ねが、承認と成長の両方を生みます。ポイントは、仕事の難易度を「今の実力より少し上」に設定することです。簡単すぎる仕事は達成感を生まず、難しすぎる仕事は自信を奪います。適度な負荷をかけながら、「うまくいかなくても一緒に考える」という安心感をセットで渡すことで、部下は失敗を恐れずにチャレンジできるようになります。そしてその小さな成功体験が積み重なったとき、部下は「自分にもできる」という確かな手応えを得ていきます。
③フィードバックを「評価」ではなく「対話」にする
「よかった/悪かった」で終わるのではなく、「あの場面、どう感じた?」と聞いてみる。部下が自分の仕事を自分で言語化し意味づけできるよう、管理職が場を作ることが重要です。評価型のフィードバックは、どうしても「管理職が採点する」構図になります。部下は緊張し、防衛的になり、素直に振り返ることが難しくなります。一方、対話型のフィードバックでは、部下自身が経験を言葉にし、そこから学びを引き出すプロセスが生まれます。管理職の役割は「正しい答えを伝える」ことではなく、「部下が自分の経験から気づきを得られるよう、問いを投げ、耳を傾ける」ことです。この姿勢が、心理的安全性を高め、部下が率直に振り返れる関係性をつくっていきます。
④上長や人事と連携する
業務に集中するあまり、管理職自身が「一人で抱え込む」状況に陥っていないでしょうか。伴走するためには、管理職自身にも余裕が必要です。その余裕は、自分の上長や人事といった周りとの連携から生まれます。
「この部下にどう関わればいいか迷っている」「チームの雰囲気が最近気になっている」――そうした声を、上長に対して上げられているでしょうか。上長への相談は、自分の視野の外にある情報や判断を取り込み、より良い意思決定をするための、管理職としての重要なスキルです。管理職が孤立せず周りとつながり続けることが、部下にとってより良い環境をつくるための、静かな、しかし確かな基盤となります。
組織をあげた管理職への支援

最後に、一点付け加えておきたいことがあります。
ここまでに述べたような「伴走する管理職」を増やすためには、管理職個人の努力だけに頼るのには限界があります。ただでさえ、プレイングマネージャーとして、高い目標の達成を求められ、部下の育成も求められる。管理職自身が孤軍奮闘で頑張ったとしても、時間や能力にも限界があります。最悪、管理職自身が潰れてしまいかもしれません。最も重要なことは、組織として、管理職の行動を支援し、しっかりと評価する必要があるということです。
たとえば、管理職の評価軸に「部下の成長支援」が含まれているか。育成の過程での小さな失敗を、組織として許容できているか。1on1や振り返りの場が、形式ではなく実質を持った対話になっているか。そして、これらの管理職の取り組みを、組織として充分に評価しているか。
ホワイトハラスメントは、管理職個人の性格や優しさの問題だけではありません。組織の評価設計・育成設計・文化が、ホワイトハラスメントを構造的に生み出してしまっていることがあります。
だからこそ、HR担当者や経営層も含めて、「令和の管理職が部下育成に伴走しやすい組織を、どう設計するか」 を問い直すことが、今もっとも必要な組織開発の視点ではないでしょうか。


