コラム

心理的所有感を高める職場ビジョンの作り方

#推せる職場づくり #働きがい

これまでのコラムでは、「推せる職場」の3要素――心理的所有感・没頭感・推薦意欲――のうち、特に「心理的所有感」にフォーカスを当ててきました。未完成さを受け入れる姿勢やチームの効力感、リーダーの関わり方など、多様な視点からこのテーマを探ってきましたが、今回は心理的所有感を高めるうえで核となる「職場ビジョンへの共感」に焦点を当てたいと思います。

今回は、ビジョンに共感が生まれるプロセスと、そのために必要な工夫について考えます。

推せる職場ラボの上林です。

これまでのコラムでは、「推せる職場」の3要素――心理的所有感・没頭感・推薦意欲――のうち、特に「心理的所有感」にフォーカスを当ててきました。未完成さを受け入れる姿勢やチームの効力感、リーダーの関わり方など、多様な視点からこのテーマを探ってきましたが、今回は心理的所有感を高めるうえで核となる「職場ビジョンへの共感」に焦点を当てたいと思います。

「共感」は心理的所有感の入り口

「心理的所有感がある」とは、自分の職場を“自分のもの”と感じている状態を指します。人は「自分のものだ」と感じた対象に対して、自然と愛着や責任感、貢献意欲を抱きます。こうした状態を職場で生むための起点の一つが、「職場のビジョンに共感しているかどうか」です。

多くの現場では、「自分の目標には集中しているけれど、職場の方針やビジョンには無関心」といった状況が起こりがちです。また、「上から降りてきたから仕方なくやっている」という姿勢も見られます。しかし、このような“他人ごと”の状態では、「もっと良い職場にしたい」「自分が関わりたい」といった思いは育ちにくく、心理的所有感も芽生えません。

つまり、目の前の仕事だけでなく、職場の目指す方向や意義、未来のありたい姿にも共感し、「自分もそこに関わっている」という感覚を持てるかどうかがカギなのです。

共感とは、理解ではなく「心が動く」状態

ここでいう共感は、単に「納得した」「理解した」という認知レベルのものではありません。「そのビジョンに心が動かされた」「やってみたいと思った」という感情の動きが伴っているかが本質です。

たとえば、「我々の部門は業務を効率化して全社を支える」と言われても、「まあそうだよね」と理解はできても、感情が動かなければ共感とは言えません。しかし、「私たちの働きが現場の仲間の笑顔や時間につながる」と語られたら、自分の価値観とつながり、「それならやってみたい」と思う人が増えるかもしれません。

この感情の動きは、聞き手が過去の経験や価値観と結びつけられるかどうかで決まります。共感は、情報の一方的な受け取りではなく、聞き手の内面との“接続”が起こるときに生まれるものなのです。

なぜ共感は「推したくなる」行動を生むのか?

職場のビジョンに心から共感していると、そのビジョンを担うチームや自分自身の存在にも誇りを持てるようになります。そしてその誇りが、「このチームで働いている自分を人に語りたい」「誰かに勧めたい」という気持ちにつながります。

これはまさに、マーケティングの文脈で語られる“アドボカシー(推奨行動)”です。顧客が満足を超えて「他人に薦めたくなる」ように、社員もまた「この職場を人に伝えたくなる」状態があります。こうした状態の源泉には、自分が受動的に従っているのではなく、「自分もこのビジョンの担い手だ」と自覚できる自律性が存在します。共感から始まり、心理的所有感が育まれ、やがて他者への推薦行動へとつながっていくのです。

ビジョンとは何か

そもそもビジョンとは何でしょうか?
よく混同されがちですが、目標とは異なります。目標は具体的な数値やKPIであり、評価と直結する「到達点」です。例えば、「今期売上目標2億円を達成する」といったものです。一方、ビジョンは「未来像」です。将来のある地点における達成したいイメージ、特に自職場のポジション又は実現したい状態です。例えば、サイバーエージェント社が掲げた「21世紀を代表する会社を創る」やファーストリテイリング社が掲げた「服を変え、常識を変え、世界を変えていく」といったものです。目標に対しては、ワクワクするかと言うと必ずしてもそうとは言い切れないですが、ビジョンは聞き手にワクワクする気持ちを引き出す可能性が高まります。

また、成果を表現するときに「アウトプット」と「アウトカム」という言葉がありますが、例えば、ある道路に100個のガードレールを作るという「アウトプット」に対して、それらを通じて、この道での死亡事故を無くすという「アウトカム」の関係性です。「効果」のようなニュアンスがありますが、良いビジョンは「アウトプット」というよりも、「アウトカム」を重視しています。

共感されるビジョンを作るために必要なこと

では、どうすれば共感されるビジョンを作れるのでしょうか。3つのポイントがあります。

① 価値を文明化する

1つ目は、先ほどのアウトカムもそうですが、価値を明確化することです。
”人はなぜ行うのか?”を納得できないと前向きに行動できません。社会にとってどのような意味があるのか、自社・自職場にとってどのような意味があるのか、それらをしっかりと伝える必要があります。そのためには、社会への価値や上位方針と連動した職場ビジョンを作ることが大事です。

② 背景ストーリーの共有

2つ目は、背景ストーリーの共有です。
前述の通り、共感とは聞き手が過去の経験と紐づけたり、価値観と共通点を見つけたりすることが大事です。だからこそ職場のビジョンは、過去の原体験や自分の価値観から語ることで、聞き手との“感情の接続”が生まれます。例えば、過去のチーム作りで殺伐とした空気でつらかった経験を出して、同じ働くならば相乗効果があるチームを作りたいというように話すと、聞き手も自分の過去の類似経験を思い出し、共感する可能性が高まります。
また、共感は”感情”が動くことでもあるので、話し方は淡々と話すよりも、”嬉しかった””悔しかった”というような感情のワードと、感情を伴う表現方法で伝える方が、しっかりと伝わります。

③ 対話機会の創出

3つ目は、対話の機会の創出です。
一方的に聞くだけだと、ビジョンを自分のものにしづらいです。問いを立てながら、聞き手に考える機会を作り、周りと意見や感情を交換できる「対話の場」を作ることが、自身の過去経験や価値観にもつながりやすく、共感の土壌をつくります。

3つのポイントがありましたが、それらの大前提として、話し手が心から実現したいとビジョンに賛同しているかが大事です。

職場ビジョンは“共感されて初めて力になる”

AIやデータが業務を代替し始める時代において、人間の役割はより“意味づけ”や“つながり”にシフトしています。このような変化の中で、職場のビジョンに共感し、自分の役割を自律的に見出せる環境は、これからの組織にとって不可欠な要素です。また、共感されるビジョンは、チームにとって「拠り所」となり、迷ったときに立ち返れる指針にもなります。ビジョンに共感が集まることで、日々の業務が「作業」ではなく「意味ある活動」へと変わっていきます。

職場のビジョンが単なる掲示物やスローガンで終わらず、メンバー一人ひとりの“推したくなる気持ち”につながるように。心理的所有感の第一歩として、「共感されるビジョンづくり」に改めて向き合っていきましょう。

次回は、皆が共感するビジョンを作った上で、一人ひとりが自律的に捉え、動いていくことが大事な中で 「キャリアオーナーシップ時代の”推せる職場”とは」についてまとめてみたいと思います。

株式会社NEWONE 代表取締役社長

上林 周平

大阪大学人間科学部卒業。アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)に入社。
2002年、(株)シェイク入社。企業研修事業の立ち上げ、商品開発責任者として、プログラム開発に従事。新人~経営層までファシリテーターを実施。2015年、代表取締役に就任。
2017年9月、株式会社NEWONEを設立。2022年7月に、「人的資本の活かしかた 組織を変えるリーダーの教科書」を出版。

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