インタビュー

「繋がり」があったから「挑戦」できた

部署横断で新入社員の主体性と働きがいを高る方法とは?

#推せる職場づくり

研修は“挑戦の場”。部署を越えて関わり合いながら、新入社員自身が考え、動き、つながっていく。ナガセヴィータの主体性を育む研修から、「推せる職場」のヒントを探ります。

研修は“挑戦の場”。部署を越えて関わり合いながら、新入社員自身が考え、動き、つながっていく。ナガセヴィータの主体性を育む研修から、「推せる職場」のヒントを探ります。

近年、人事領域でも「オンボーディング」という言葉が浸透し始め、多くの企業で新人、中途を問わず、新しく加わった社員やメンバーが組織の文化や業務に馴染み、早期に活躍できるように支援する取り組みが増えてきました。

一方で、取り組みの質を如何に高めて価値あるものにしていくか、正解がない中で多くの組織が試行錯誤を続けています。
今回そこに向けたヒントを探るために、推せる職場ラボが取り上げるのは、ナガセヴィータ株式会社の研究技術・価値づくり部門で昨年から推進されてきた「主体性を育む研修」の事例です。

研修を1つの起点としながら、どのように新入社員の主体性や働きがいの向上に取り組んできたのか、全体推進をしてきた研究技術・価値づくり部門 研究管理部 研究管理課長の遠藤伸氏(以下遠藤氏)、昨年新入社員として半年間の研修に取り組んだパーソナルヘルスケア部門 医薬品素材部 技術価値支援課の井上颯氏(以下井上氏)、研究技術・価値づくり部門 酵素リサーチユニットの川瀬優花氏(以下川瀬氏)にお話を伺いました。

部署間の連携など、職場配属後に生まれた組織への波及効果も含めて、取り組みの裏側と試行錯誤のプロセスを紐解きます。

「主体性を育む研修」とは

まずは「主体性を育む研修」を始めることになった経緯をお伺いさせて下さい。

遠藤氏:私たちが勤めている藤崎研究所には真面目でこつこつ頑張るタイプの研究員が多いです。これまで多くの成果をあげてきた一方で、今後さらなる成果を生み出していくためには、もっと主体的な行動やマインドを持って全社に影響を与える人財を育成していきたいという経営層からの期待や願いがありました。その想いを受けて、最終的には「じっくり時間をかけて主体性を理解し身に着けていく研修をやりましょう」となり、昨年から新入社員を対象とした取り組みが始まりました。

われわれの会社のバリュー(行動指針)の1つである「自ら行動する」という点において、研究・価値づくり部門は他の部門と比べ少しおとなしい傾向がありました。だからこそ、どんどん周りを巻き込んで推進していけるような姿勢や行動力を持った人財を育てたいという狙いもありました。

新入社員が他者を巻き込んでいける人財になれば、先輩社員の意識や行動にも影響を与え、それによって3年後、5年後に組織全体が変わっていくのではないかという期待もありました。

研修の全体像は、どのように組み立てたのですか。

遠藤氏:最初は私が所属する研究管理部の上長含む部長数人と、私で何度か打ち合わせをしながら、研修の期間や内容を検討していきました。

その中で最初から決めていたのは、「こちらから細かなテーマを与え過ぎない」ことでした。一般的な研修では、レールを敷いてその通りにプログラムを進めていくことが多いですが、それはやめようという話はしていました。今回は、あえて大きな課題だけを提示し、「新入社員が自分たちで考えて、自分たちで周りを巻き込みながら成果を導いていく」プロセスを大切にしたいという気持ちがありましたね。

研修の構成としては、7人の新入社員が2~3人ずつのチームを組み、研究・価値づくり部門の全7部署を、1部署あたり2週間で回っていくスタイルにしました。さらに、2週間ごとにメンバーもシャッフルしながら固定化しないように進めました。

主体性を育む研修の概要

受け入れる部署にとっても結構ハードな取り組みで、われわれ研究管理課が伴走し、新入社員の様子を見たり、受け入れ部署との調整を行ったりしながら、困ったことがあればサポートに入ったりと、全体の橋渡し役として支援しました。

全7部署を回る形にした狙いや、背景についてもお伺いできますか。

遠藤氏:現場に配属されると、配属された部門や課の専門性は、どんどん身に付いていく一方で、横でつながっている部課とのコミュニケーションや交流が少ないことを課題に感じていました。
配属後はどうしても自分の業務に集中してしまい、他部署の取り組みを知る機会を持ちにくくなるので、この研修期間中の4ヶ月で、各部署の機能・役割・課題を新入社員が自分たちで研修先の部署の方との雑談、対話を通して調べまとめ、見つけた課題に対して自分たちなりの意見・考えを伝えることを大きなテーマとして設定しました。

結果的に、新入社員が調べたことを共有したことで、他の先輩社員も「隣の部や隣の課がどんな取り組みをしているのか」を詳しく知る良い機会になり、副次的な効果も得られました。
また、裏の目的として、先輩社員の顔と名前、担当業務を覚えることも意図していました。大きな組織では同じ部門にいても、顔と名前が一致しないことがあるので、新入社員のうちに、幅広く人やその人の業務を知ること、そして自分自身を知ってもらう機会にして欲しいと考えていました。

新入社員の変化と成長

昨年、新入社員として研修に取り組んだお二人は、どんな場面が印象に残っていますか?

井上氏:まず、同じ研究技術・価値づくり部門でも、岡山の藤崎研究所と京都の福知山の研究所で風土が異なることに気づき、その違いが印象に残っています。

川瀬氏:私は研修期間中に、工場見学をする機会を新入社員である私たちから交渉し、アポイントを取ったことが印象に残っています。
もともとスケジュールの中には工場研修は組み込まれていなかったのですが、工場が複数ある地区に行く機会があったので、折角なら現場も見てみたいと考えて、交渉をしました。岡山の工場では、工場長の話も伺うことができて、決められたプログラムにとどまらず、自分たちで枠を広げている感覚がありました。

まさに、研修期間で既に主体性が発揮されていたんですね。研修を通じてどのような変化や成長を感じましたか?

川瀬氏:私は、京都の福知山事業所に配属になったので、岡山の研究所の現場の方々とは面識がなく、最初はすごく緊張していました。でも、研修を重ねていくうちに、少しずつ顔と名前を覚えて、話をすることや、交渉することのハードルがどんどん低くなっていきました。

井上氏:先輩社員の方へのヒアリング時間の中で、「いかに情報を得ることができるか」を考えながら研修に取り組みました。事前にヒアリング項目を整理し、何にどれくらい時間を使うか計画を立て、限られた時間の中で欲しい情報を引き出していく能力が身に付いたのではないかと思います。
今は、業務で社外の方と打ち合わせをしたり、お話をする場面も多いのですが、「ここは絶対に押さえて聞くこと」、「余裕があれば聞いた方がいいこと」を順序付けして、必要な情報を的確に収集することを意識しています。

今の業務にも活かされているんですね。事務局として遠藤さんは研修中に新入社員の方に対して、どのように関わっていたのでしょうか?

遠藤氏:基本的には細かい介入はせず、定点観測として見守ることに徹していました。各部署2週間の受け入れ期間の後に新入社員が調べた部署について発表する機会を設けていたので、その内容から、研修成果を感じ取っていました。調べたことをまとめ上げ、自分たちなりの意見を伝えるレベルは初めから高かったのが印象に残っています。

一方で成長意欲を持ち続けて欲しいと思っていたので、「同じことをやっても意味がないよ」など、「次の2週間は、別の工夫や新しい試みを加えて欲しい」など、ステップアップを促すような言葉は伝え続けていました。みんなから若干嫌われる場面もあったかもしれませんが、それも含めて良いコミュニケーションは取れていたと思います。

私が何よりも意識していたのは、最終発表を終えたときに、新入社員1人ひとりが「自分は成長できた」と実感してもらうことです。昨年は12月に最終発表を行いましたが、そこで終わりではなく、配属先に戻っても主体性を発揮していって欲しいという想いがありました。そのため最後には、全員に「My Vision(自分なりの今後の目標)」を発表してもらう機会を設けました。

配属後も続く部署を超えた挑戦

「主体性を育む研修」を通じて、部署間の連携にも何か影響や変化はありましたか?まずは井上さん、川瀬さんにお伺いします。

井上氏:研究所には約100名の社員が在籍しているので、業務で気になったことがあっても、特定の人にしか聞けないと、業務がスムーズに進まないことも多くあると思います。今回の研修を通じて、たとえ迷惑をかける可能性があってもまずは巻き込んでみようという勇気が生まれ、少しずつ部署を超えて気兼ねなく質問や相談できる関係性を築けたと感じています。

 川瀬氏:私が勤務している福知山事業所の酵素リサーチユニットには、食品添加物用の酵素開発の経験が豊富にあります。その技術を、食品以外の分野に展開できないかというアイデアがあり、現在検討を進めているところです。
一方で、福知山にはターゲットとなる業界に詳しい方が少ないため、調査を始める段階で右も左も分からない状態でした。そこで、研修で得た繋がりを活かして、その業界と関連がある部署の方に、その業界の市場調査をする際に扱っているツールや、普段どの展示会に行って情報収集しているのか、また、各展示会の特徴などについて情報収集を行っています。

先日は上司と相談し、関係部署の方と一緒にウェブ会議を開催して、アイデア出しのブレストも実施しました。こうした動きが取れたのは、研修を通じて社内で「誰がどんなことをしているのか」を知り、実際に関係を築けたことが大きいと感じています。

私が岡山に出張した際には、藤崎研究所の方から、酵素についての質問などを受けることもあります。藤崎研究所の方にも福知山の酵素について知ってもらう機会になりますし、私も回答するために調べることで、酵素に関する理解が深まります。また、このようなやり取りで部署を越えてコミュニケーションを深めることが出来ています。

部署間の連携や研修の波及効果について、全体を推進する遠藤さんの視点からはどのように映っていますか?

遠藤氏:まず、新しい物事を進めていくときに1人で悩み動けない状態ではなく、無意識的に他者を巻き込んで行動していくことができていて、「巻き込むことへのハードルが下がっている」と、2人の話を聞いていて感じました。それは当初から狙っていたことでもあるので、上手く実践をしてくれていてとても嬉しく思います。

例えば、藤崎研究所で仕事を進める中で、とある研究スペシャリストに話をしなければならないことや、難しい課題にぶつかることは多々あります。そのとき、新入社員の立場では、10も20も年齢が上の先輩に聞きづらい気持ちもあると思います。

しかし今、2年目を迎えた2人は、岡山と福知山の物理的な距離や部門の壁も超えて、臆することなく飛び込んで質問して、自分から動けています。アクションすることに抵抗を感じることもなくスピーディーに仕事を進め、積極的に周囲を巻き込み、行動できているのはとても素晴らしいことだと思います。

今後の展望

これまでの手ごたえも踏まえて、更に挑戦していきたいことや、今後の展望をお聞かせください。

川瀬氏:はじめは連絡を取るだけでも緊張することや、尻込みしてしまうことがありました。でも最近は、「酵素リサーチユニットには川瀬さんがいる」と、研究部門以外の方にも覚えてもらえるようになりました。

今後も食品以外の分野に福知山の酵素を展開するために情報収集を行っていきます。そのための直近のアクションとして、その分野の展示会に参加します。関連部署の方々からのアドバイスを活用して、どんどん情報を収集していき、得られた情報から新しいアイデアを出していきたいと思います。

 井上氏:私が主担当として社内で動かしている新しいプロジェクトがあります。そのプロジェクトにおいて、社内だけでなく社外のプロフェッショナルの方々も巻き込みながら、医薬品分野において価値あるデータを取得し、社会に貢献することが目標です。

 遠藤氏:この「主体性を育む研修」は、メンバーにも恵まれて良いスタートが切れたと思っています。2年目になった皆さんがそれぞれ主体的に行動し、周りを巻き込んで成果を掴みに行っている姿が見えますので、今研修に取り組んでいる1年目の社員も、それに続いて欲しいですね。
このプロジェクトは3ヵ年計画で考えているので、1年半後には、この研修を経験してきた3年分の若手社員たちがいて、”主体性の塊”のような若手社員たちがこの会社や研究所を変えていってくれると信じて取り組んでいます。そのためにプログラムも工夫しながら、私自身も新しい世代から学び、一緒に成長していきたいと思っています。

皆さんが成長していく中で、組織がどう変わっていくのか、これからが本当に楽しみですね。本日は貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。

会社概要:ナガセヴィータ株式会社

ナガセヴィータ株式会社は、食品・医薬・パーソナルケア分野向けに機能性素材を提供する研究開発型バイオ企業です。微生物や酵素技術を活かした独自の研究開発を強みとし、「生命に寄り添い、人と地球の幸せを支える」ことをパーパスに掲げています。今後は、国内外のパートナーとの共創を通じて、健康と環境の両立に貢献する革新的な素材の開発を目指しています。

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