コラム

「推し活」と職場エンゲージメントの共通点と相違点:感情的なつながりの力

#エンゲージメント #推し活

本コラムでは、「推し活」と職場エンゲージメントの共通点と相違点を分析し、職場に活かせる点があるかを考察したいと思います。

推せる職場ラボの上林です。

2021年の新語・流行語大賞に「推し活」という言葉がノミネートされ、今では一般的に使われる言葉になりました。

「推し活」とは、特定のモノ(アイドルやキャラクター、チーム等)を応援する活動を指し、近年多くの日本人にとって重要な自己表現手段となっています。この活動で得られる感覚は、職場での「エンゲージメント」に似た要素があり、本コラムでは、「推し活」と職場エンゲージメントの共通点と相違点を分析し、職場に活かせる点があるかを考察したいと思います。

推し活のメカニズム

「推し活」では、「自分の推し」を応援することで強い愛着や貢献感を感じると言われますが、これは心理学用語では「心理的所有感」という言葉になります。

心理的所有感とは、法的に所有しているか否かにかかわらず、人がある対象を自分のものだと感じる感覚を指します。この概念は、個人が何かを所有することで自分自身が拡張されるという感覚に基づいています。
たとえば、ファンがアイドルを応援することで、そのアイドルの成功が自分の成果のように感じられる状態や、従業員がプロジェクトに対して強い責任感や貢献意識を抱く状態が該当します。

この心理的所有感は心理的一体感心理的責任感から構成され、以下の3つの要素に基づいて形成されると言われており(Pierce氏の研究より)、推し活や職場の例で説明したいと思います。

統制意識(自己統制感)

対象物に対して何らかのコントロールができる、もしくは影響を与えられると感じることが心理的所有感を形成する主要な要素です。
たとえば、アイドルの成長に対してファンが応援活動を行うことで、「自分の推しが成功した」と感じるのはこの自己統制感によるものです。同様に、職場でも従業員が自分のアイデアや行動でプロジェクトに影響を与えられると感じることで、この感覚が強まります。

知識意識

所有感は、対象物についての知識を深めることでも強化されます。
アイドルファンが推しに関する情報を集め、それを他のファンに共有することで、心理的所有感が高まるのと同様に、職場ではプロジェクトに対する知識や専門性を深めることが、業務への所有感を強化します。

投資意識(自己投資)

時間や労力を対象物に費やすことで、対象に対する自己投資が行われ、心理的所有感が高まります。
推し活では、コンサートやイベントに参加したり、グッズを購入することで、ファンはアイドルとの一体感を強めます。同様に、職場では従業員が業務に多くの時間や努力を注ぐことで、仕事に対する責任感や所有感が高まります。

この3つの意識の高まりによって心理的所有感が高まるのがメカニズムであり、心理的所有感が強まることで、個人の幸福感も高まることが示されています。

※「上田泰; 井上淳子. 推し活意識が幸福感に及ぼす影響: 推しの心理的所有感の媒介的作用. 成蹊大学経済経営論集, 2023, 54.1: 47-64.」より引用

「推し活」と職場エンゲージメントの共通点と相違点

共通点:感情的なつながりと心理的所有感

「推し活」と職場エンゲージメントの共通点は、感情的なつながりとそれに伴う心理的所有感の力です。推し活では、ファンは応援する対象と強く感情的に結びつき、その成功を自分の成果のように感じます。この心理的所有感が、ファンの行動を促し、主体的な応援活動へと繋がります。
同様に、職場エンゲージメントでは、従業員が自分の仕事やプロジェクトに対して「自分のもの」という感覚を持つことで、感情的なつながりが生まれ、仕事に対する情熱や責任感が高まります。
このような所有感を持つ従業員は、業務に対して積極的に関与し、結果として高いパフォーマンスを発揮することが期待されます。

相違点:モチベーションの多様さと対象

推し活と職場エンゲージメントの大きな違いは、モチベーションの源泉と対象にあります。推し活は主に内発的なモチベーションによって成り立っており、ファンは外的な報酬を期待せず、自己満足や感情的充足のために行動します。この場合、心理的所有感は個人やキャラクターに対する感情的つながりに基づいています。
一方、職場エンゲージメントでは、内発的なモチベーションに加え、昇進や報酬などの外的要因も影響を受ける場合があります。さらに、従業員が感情的に結びつく対象は、特定の個人ではなく、仕事そのものや会社全体となるため、推し活とは異なる所有感が形成されます。
この違いが、感情的なつながりの深さや持続性に影響を与えるのです。

心理的所有感を活かして職場エンゲージメントを高めるポイント

「推し活」と職場エンゲージメントに共通する鍵となる要素は、心理的所有感です。推し活において、ファンがアイドルやキャラクターに対して感じる所有感は、職場においても従業員が仕事に対して感じることができる感情です。所有感が強まると、従業員は自分の仕事に対して強い責任感を持ち、モチベーションが向上し、より積極的に業務に取り組むようになります。
推し活では、ファンが「推し」の成功に貢献することで、自分も成功していると感じます。この感覚を職場に応用することで、従業員が自分の役割やプロジェクトに対して「自分が関わっている」という意識を持つことができ、エンゲージメントが高まります。
具体的には、まず従業員が自分の仕事に影響を与えられるような環境を作ることが大切です。自分の意見やアイデアが仕事の進行や結果に反映されることで、自己統制感が生まれ、心理的所有感が強まります。
また、日々の努力や小さな成功をフィードバックし、認知することで、従業員が自己投資に対して達成感を得られるようにします。

次回のコラムでは、こうした心理的所有感の考え方を実際に職場でどのように活用し、エンゲージメントをさらに高めるかを具体的に探ります。従業員が「自分のもの」と感じられる環境を構築することが、長期的な組織の成功と持続的なエンゲージメント向上に繋がるのです。

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