コラム

心理的所有感が高まりやすい職場とそうでない職場の違い

#キャリアオーナーシップ #推せる職場づくり

今回は、心理的所有感が高まりやすい職場とそうでない職場の違いを捉え、大事なポイントについて具体的に考えていきたいと思います。

推せる職場ラボの上林です。

前回触れたエンゲージメントを高めるために重要な役割を果たす「心理的所有感」。
心理的所有感とは、従業員が自身の仕事やプロジェクトを「自分のものだ」と感じる感覚を指し、これが高まることで従業員の責任感や情熱が増し、職場全体のパフォーマンス向上につながるとされています。
今回は、心理的所有感が高まりやすい職場とそうでない職場の違いを捉え、大事なポイントについて具体的に考えていきたいと思います。

心理的所有感が高まりやすい職場とそうでない職場の違い

一番大きなポイントである上位者のリーダーシップスタイル

心理的所有感が高まりやすい職場とそうでない職場の違いを生み出す一番を大きな要因はリーダーシップスタイルにあります。

心理的所有感が高まりやすい職場では、リーダーが従業員の意見を尊重し、意思決定に参加するようリーダーシップを発揮しています。その結果、従業員は組織の目標達成に向けた共同作業の一員としての意識が高まり、心理的所有感が醸成されます。

一方そうでない職場では、トップダウンの文化が強く、従業員の意見が反映されにくくなり、自分の仕事に対して疎外感を抱きやすくなります。こうした職場では、リーダーが権威的であればあるほど、従業員は自分の仕事に対して積極的に取り組む意欲を失う傾向があります。

そういったリーダーシップスタイルを踏まえて、職場にどのような違いがあるかを見ていきましょう。

職場の具体的な違い① 情報共有と透明性

心理的所有感が高まりやすい職場では、職場における全体像やプロジェクトの進行状況について従業員に定期的に情報を提供することで、従業員は自分の役割が組織全体にどのような影響を与えているかを理解しやすくなっています。特に、オープンなコミュニケーションが促進されている職場では、従業員は自分の意見やアイデアが受け入れられやすく、心理的所有感が強まると考えられます。

一方そうでない職場では、情報が一部の人にしか共有されなくなっており、従業員は組織の目標や方針に対して疎外感を感じることが多くなります。透明性の欠如は、従業員の心理的所有感を低下させ、結果として職場へのエンゲージメントも低くなる可能性があります。

職場の具体的な違い② 任せる文化

心理的所有感が高まりやすい職場では、自分で仕事の進め方や優先順位を決められる余地が多い文化であり、従業員は自分の業務に対して強いコントロール感を持ち、結果として責任感が高まります。このような自律性を促す職場では、従業員は自分の判断がプロジェクトや組織全体に影響を与えていると感じやすく、心理的所有感が強まる傾向にあります。

一方そうでない職場では、業務が単なる指示に従う作業という文化であり、従業員が自らの仕事に対して主体的に取り組む機会が減少します。こうした環境では、従業員は仕事に対する所有感を感じにくくなり、エンゲージメントも低下する可能性があります。

職場の具体的な違い③ 成長機会

心理的所有感が高まりやすい職場では、チャレンジアサインや研修など自己成長の機会が多く提供されています。自分のスキルや能力が向上していると感じられる環境では、従業員はその職場に対して投資したいという意欲が強まります。

一方そうでない職場では、成長機会が限られており、従業員は自己投資の意欲を失いがちです。その結果、従業員は自分の仕事に対して短期的な視点でしか関与できず、心理的所有感が希薄になることがあります。

職場の具体的な違い④ フィードバック

心理的所有感が高まりやすい職場では、日々のフィードバックが盛んです。そのフィードバック対象は成果に対してだけでなく、プロセス面も対象であり、行動の変化やスタンスの変化についても行われます。また、称賛だけでなく貢献に対する感謝・労いのメッセージも多く、その結果従業員が自分の努力や成果を認められ、適切に評価されることで、彼らの仕事に対するモチベーションが維持されます。

一方そうでない職場では、フィードバックが不十分であり、従業員は自分の貢献が認知されていないと感じ、仕事に対する情熱を失いやすくなります。このような環境では、心理的所有感が低下し、従業員のエンゲージメントも低くなるリスクがあります。

なぜそういった差が生まれるのか

心理的所有感が高まりやすい職場が良いと頭でわかったとしても、なかなか難しい要因は以下の3つにあります。

①リーダーのスタンス面

その差が生まれる要因は、リーダーが細部まで管理しすぎるマイクロマネジメントにあります。そしてその行動の要因としては、以下が挙げられます。

信頼の欠如

リーダーがメンバーの能力を信頼していないため、自分の期待通りの結果を出すために細かく指示を出してしまう。特にリーダーが有能な場合に多い傾向です。

管理の習慣

特に長年の企業文化として、トップダウンの指示が当たり前になっている職場では、リーダーが「指示を出すことが仕事」と考え、メンバーに任せるという発想自体が定着していないことが多いです。

過去の失敗への不安:過去にメンバーが重大なミスをした経験がある場合、リーダーが再び失敗を恐れて過度に管理しがちになります。

上記3つともですが、リーダー本人の持って生まれた特性というよりも、過去の経験からの合理的な習慣でもあります。しかし、自分自身が培ってきた習慣は簡単には変わりません。特に結果を出してきた人は過去のやり方に引っ張られるのでさらに難しいです。

だからこそ、過去のやり方自体は肯定し、一方で、作りたい組織像に向けて一歩ずつ腹落ちすることでスタイルの変容を行うことが大事です。

②リソースや時間の不足面

心理的所有感を高めようと思うと、一定のリソースと時間が必要です。
しかし、短期的なプレッシャーでそのリソースや時間を割けないことが要因となることもあります。

人手不足

メンバーが少ない場合、日々の業務に追われてフィードバックやメンバー育成に時間を割けないことがあります。その結果、メンバーが自己投資感覚を持ちづらくなります。

リーダーの過負荷

リーダーが過度の責任を負わされ、多数のメンバーを管理しなければならない場合、個別のフィードバックや適切なタスク委任が難しくなります。そのため、従業員の成長を支援する余裕がなくなり、心理的所有感の醸成が疎かになってしまいます。

心理的所有感が高まることでパフォーマンスが高まる効果を感じることができれば、前向きに取り組めますが、その実感がなければ限られた時間の中で取り組むことは難しいのが実情です。
しかし、どこかのタイミングで向き合わなければ、ずっとリソース不足を嘆く状況であり、 まずは一歩抜け出すことが大事です。

そのために、「簡単な意思決定の共有から始める」「フィードバックの頻度を少しずつ増やす」など、いきなり大きな変化を求めるのではなく、小さなステップから始めることで感覚を掴むことが大事です。

③スキル不足面

心理的所有感を高めようと行動しても、スキル面の不足などで上手くいかない場合があります。

リーダーのスキル不足:リーダーが適切なフィードバックの方法を学んでおらず、ただ単に「叱責」や「命令」になってしまうことがあります。また、一人ひとりに権限移譲する方法がわからず丸投げになっていることもあります。具体的なやり方を理解し、できる実感を持ってもらうことが大事です。

メンバーのスキル不足:自分の業務に対する知識やスキルが不足している従業員は、自信が持てず、せっかくの機会があったとしても仕事に対して主体的に取り組むことができません。そのため、所有感を育むことが難しくなります。

スキル面の不足に関しては、研修などで理解を促すこと、職場で実践したことに対してフィードバックをもらうことが成長につながります。

心理的所有感を高めるためにはパラダイムシフトが重要

ビジネス環境を捉えると、今まで工場が中心であり、管理・統制が主でした。
一方で、今回の心理的所有感を高めるというアプローチは、管理・統制の考え方からすると、大きな変容であり、パラダイムシフトとも言えます。

だからこそ、一瞬で切り替わるわけではなく、一歩ずつトライし、チューニングをしていくことが大事です。一方で、完璧な職場を自分一人で作ることは不可能に近いため、次回コラムで職場の未完成さを武器にしたアプローチについてまとめていきたいと思います。

株式会社NEWONE 代表取締役社長

上林 周平

大阪大学人間科学部卒業。アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)に入社。
2002年、(株)シェイク入社。企業研修事業の立ち上げ、商品開発責任者として、プログラム開発に従事。新人~経営層までファシリテーターを実施。2015年、代表取締役に就任。
2017年9月、株式会社NEWONEを設立。2022年7月に、「人的資本の活かしかた 組織を変えるリーダーの教科書」を出版。

推せる職場ラボ

について

推せる職場とは? 推せる職場ラボについて