コラム

「未完成な職場」の魅力とは?従業員の成長意欲を引き出す仕組み

#キャリアオーナーシップ #推せる職場づくり #働きがい

今回は、今まで触れてきた心理的所有感の中で”未完成さ”に関して、未完成な職場のもつ可能性と、そこで従業員の成長意欲を引き出すための仕組みについて考えていきたいと思います。

推せる職場ラボの上林です。

前回、心理的所有感が高まりやすい職場とそうでない職場の違いから、心理的所有感が高まる組織を作るために何が大事かについて、リーダーの在り方やリソース面などについてまとめました。
今回は、今まで触れてきた心理的所有感の中で”未完成さ”に関して、未完成な職場のもつ可能性と、そこで従業員の成長意欲を引き出すための仕組みについて考えていきたいと思います。

「完成された職場」と「未完成な職場」の違い

まず、「完成された職場」と「未完成な職場」の特徴を比較してみましょう。

完成された職場では、通常、役割やプロセスが明確に決まっており、組織内での仕事の進行がスムーズです。また、ここまでできっちりと職場が作られてきたこともあり、「誰もが明らかに課題だ」と思うような課題は少ない状況です。
しかしその反面、変革や挑戦の余地が限られているため、メンバーが職場や仕事に対して「自分ごと感」を感じることが難しくなる傾向があります。

一方で、未完成な職場とは、日々の業務の中に改善点や発展の余地が多く、メンバーが自らの意思で変革や改善に携われる余地がある環境を指します。
未完成さがあることで、メンバーは新たなアイデアや工夫を提案しやすく、職場に対して「自分が成長に貢献している」という所有感が生まれやすいといえます。

このように比較をしてみると、「未完成」というのは悪いことではなく、より良い組織を目指す中で、改善したい課題があるという状態だと言えます。
しかも、漠然と一人ひとりが課題を感じているのではなく、職場全体で共通認識になっており、改善したいなという機運があることが大事です。

この「課題」とは、「売上目標に対してまだ未達である」という短期的な業務課題もありますが、「未来を見据えると自職場の強みを磨く必要がある」「属人化しているのでマニュアルなどで底上げをしていくべきである」というような長期を見据えたからこそ出てくる課題もあります。
また、そういった業務課題に加えて、「個人がバラバラで縦割り傾向があり、横連携を強化すべきだ」というような組織構造の課題もあれば、「若手から意見が出にくい文化だ」というようなカルチャー面の課題、「一人ひとりのデジタル活用スキルが低い」というようなスキル面のような課題もあります。

職場全体で課題をどのように認識しているかが「完成された職場」と「未完成な職場」の違いを生み出しているとも言えます。

「未完成な職場」が機能する場合とそうでない場合

未完成な部分があればよいかというと、そうではないです。

職場の未完成の部分に対して、あきらめを感じてしまう職場もあれば、前向きに取り組んでいきたいと職場もあります。

分岐点は何でしょうか。

成し遂げたいもの、方向性にメンバーが共感できているか

1つは、その職場が何を成し遂げたいのか、その方向性にメンバーが共感できているかどうかです。「チーム」の定義は、ただ人が集まったものではなく、「共通の目的に向かって集まった集合体」であり、この共通目的への共感は重要です。

この共感を高めていくためにすべきことの一つとして、「価値」の明確化があります。

仕事をする上で行う作業に注目しがちですが、何のために行っているのか、どのような価値があるのかを明らかにすることが大事です。
例えば、「リフォーム」を提供している会社は、家をリフォームするという仕事をしていますが、提供価値としては「より快適な居住空間」であり、その先には「家族団欒」というものがあります。「リフォームを行う」「売上を上げる」ということも大事ですが、「多くの家族により良い家族団欒を」をというような提供価値を明らかにし続けることが大事です。

もう一つ共感を高めていく上で大事なことは、対話を重ねることです。
対話とは、議論ではなく、お互いの背景の考えを明らかにし、尊重する行為です。
現状の職場目標・戦略の背景にある想いや、一人ひとりがなぜこの会社で働くことに決めたかの想いをシェアしたり、どういうときにやりがいを感じるのかを共有しあったりすることです。

共感とは文字面に共感することは少なく、その背景にあるストーリーや感情に共感するものです。だからこそ、そういった機会を定期的にとることが大事です。

collective efficacyがあるかどうか

自社の未完成の部分に対して前向きに取り組む分岐点のもう1つは、collective efficacyがあるかどうかです。

collective efficacyとは、組織やチームが「自分たちは目標を達成できる」と感じる集団的な自信や信念のことです。
この感覚が強い組織では、メンバーが協力して困難を乗り越えようとし、挑戦に前向きに取り組む傾向が生まれ、個々の力に頼るだけでなく、集団の力で成功を収められるという信頼感が高まると言われています。

この自分たちは達成できるという信念を高めていくためには、まず前述のとおり共通目的への共感が大事です。

それ以外で大事な4つのポイントも押さえておきましょう。

① 小さな成功体験を積み重ねる

目標達成に向けて小さな達成感を得られる活動を繰り返し、チーム全体で成功体験を共有することで、自信と一体感が生まれます。いきなり最終ゴールだけを目指すのではなく、途中の段階でも、皆で達成感を作ることが大事です。

② サポートし合う環境を作る

メンバーが互いに助け合えるよう、リーダーはサポートを重視した環境を整えます。助け合う文化が根付くことで、周りへの信頼感が高まり、困難に直面しても支え合う力が高まります。

③ 課題や方針に対して意見を言える機会と作る

「自職場がより良くなるために自分から意見を言える」という状態が、当事者意識を高め、その職場をより良くできる自信につながります。

④ フィードバックと称賛の機会を増やす

メンバーが行った良い行動に対して積極的にフィードバックし、称賛します。これにより個々の成長が促進され、チーム全体の効力感が向上します。

こういった活動を繰り返し、メンバー全員の自分たちは達成できるという信念を高めることが大事です。

未完成な職場が成長につながるメカニズム

未完成な職場の方が、成長意欲が高まり、成長できそうであると漠然と感じますが、なぜそうなるのでしょうか。3つの点から紐解いていきましょう。

① 自ら課題認識を持つ

まず1つは、課題認識にあります。受け身的なやらされ仕事と比べ、自ら課題認識を持ち、周りも課題だと後押ししたい状況だと、課題に対して自発的なチャレンジが行いやすい点にあります。そういった内発的動機は、自律的な創意工夫が起こり、成長につながりやすいです。また、責任感も高まります。

② 職場全体を捉えることで、視座が上がる

自分自身の視点から自分の仕事を見るだけでなく、職場全体を捉え、先のことも考えて、課題を見つめることは、職場全体のマネジメントをしている人の視座になることです。人はどの視座に立っているかで発言や行動が変わりますが、だからこそ、高い視座が成長につながっていきます。

③ 学びの機会が増える

共通目的のために周りと相互信頼があると、困難と向き合った際に支援を受けることで壁の突破体験を得ることが出来ます。また、難しい論点にはアドバイスを受ける機会も増えます。仕事に全力で取り組み、振り返りを行いながら持論化することが成長に大事なことは経験学習サイクル理論でも提唱されており、その環境があると言えます。

未完成さと向き合い、成長環境だという認識を作る

“未完成”と聞くと、イマイチに捉える場合もありますが、ここまでの話の通り、一人ひとりの成長機会にもなります。

そのためにも、メンバー全員が方向性に共感しあうこと、まだまだ良くなる思える信念を高めること、そういった組織を作っていくことが大事です。

そして、そういった組織を作っていくためには、リーダーの意識面が非常に重要です。次回コラムでは、最近注目が高まっているシェアド・リーダーシップという概念から、リーダーの在り方についてまとめてみたいと思います。

株式会社NEWONE 代表取締役社長

上林 周平

大阪大学人間科学部卒業。アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)に入社。
2002年、(株)シェイク入社。企業研修事業の立ち上げ、商品開発責任者として、プログラム開発に従事。新人~経営層までファシリテーターを実施。2015年、代表取締役に就任。
2017年9月、株式会社NEWONEを設立。2022年7月に、「人的資本の活かしかた 組織を変えるリーダーの教科書」を出版。

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