コラム

参画意識が主体性を引き出すPART1

#推せる職場づくり #キャリア

今回は「参加型デザイン」「ソーシャルイノベーションのためのデザイン」などの視点からデザイン理論研究を世界的に牽引してきたミラノ工科大学のEzio Manziniの著書「Design When Everybody Designs」を紐解き、デザインやイノベーションの視点から心理的所有感や、推したくなるコミュニティのつくり方について考えていきたいと思います。


エンゲージメントや働きがいを高めるために、1人ひとりが自分で職場をつくっている実感、いわゆる「心理的所有感」の醸成が重要であることは、以前のコラムでも触れてきました。

その文脈も踏まえて、今回は「参加型デザイン」「ソーシャルイノベーションのためのデザイン」などの視点からデザイン理論研究を世界的に牽引してきたミラノ工科大学のEzio Manziniの著書「Design When Everybody Designs」を紐解き、デザインやイノベーションの視点から心理的所有感や、推したくなるコミュニティのつくり方について考えていきたいと思います。

この書籍は2015年にMIT Pressより出版され、新しいデザインの考え方を世に示したことで、世界中のデザインスクールにおいて欠かせない一冊として注目されてきました(現時点で日本語には翻訳されていません)

デザインとイノベーション

まず「みんながデザインをする時代のデザイン」というタイトルからも読み取れるように、これからデザインやデザイナーの役割が変化していくことが、同書では一貫して議論されています。

その背景にあるのがイノベーション、とりわけソーシャルイノベーションの必要性です。社会の課題が複雑化する中で、従来の解決策が機能せず、これまでとは全く異なる視点や方法が求められるようになってきています。

Manzini自身は、イノベーションを「既存のリソースを再構成することによって、新しい機能や意味を創造すること」であると同書の中で述べていますが、その具体例の一つとして高齢者のケアについて取り上げています。

高齢化社会において、従来の考え方では「いかに全ての高齢者をケアしていくことができるか」という問いが立てられ、提供する福祉サービスの更なる充実が議論されてきましたが、このやり方では限界があります。

そこで「高齢者を解決すべき課題の対象やサービスの消費者として捉えるだけではなく、むしろ解決策のパートナーとしても捉え直してみる」ことが、新しいイノベーションを生んできたと指摘しています。

Manziniは具体的な事例として、ロンドンのCircle UKなど、福祉専門家のサポートを受けながら高齢者同士がお互いをケアする取り組みや、イタリアのミラノで家を持つ1人暮らしの高齢者と、安く家を借りたい大学生をマッチングし、自宅で一緒に暮らすことをサポートするHosing a Studentというサービスなどを紹介しています。

そのような取り組みのアウトカムとして、高齢者自身が自分のできること(ケイパビリティ)を再認識し、社会との繋がりが創出されるとともに、新しい考え方や仕組みが行政サービスなどにも導入されることで、持続可能性が担保されるケースも出てきているようです。

まさに今あるものを生かしながら、新しい機能や意味を創造しており、全ての人がサービスや仕組みをデザインしていく主体者であるという認識に立った時、課題に対するアプローチの仕方が大きく変わることが分かります。

ビジネスや組織づくりに応用する

上記のような視点や取り組みは様々な場所で増えてきていますが、ビジネスや組織づくりの現場に応用することも可能です。例えば、近年企業でも導入が増えてきた「リバースメンタリング」という制度をご存知でしょうか。

その言葉通り、立場を逆転(リバース)させたメンター制度のことです。例えば、入社年次の浅い若手社員が、経営層のベテラン役員と定期的に面談を行い、役員の悩みに対して質問やアドバイスを返し、若い世代の価値観や発想を伝えるなどの運用方法があります。

新しい発想を経営に取り入れることでイノベーション創出に繋げ、役割や立場を超えて対等にコミュニケーションが取れる組織風土を醸成していくことを狙い、企業ごとに様々な取り組みが行われています。

先に述べたManziniの議論と照らし合わせると、従来の発想では育成対象(組織の課題)であると思われた新人や若手社員を、組織を活性化させていくリソース、主体者として捉え直すことによって、新しい意味を創造していくアプローチであると言えます。

このリバースメンタリングを、エンゲージメント向上や働きがいの視点から考えると、若手社員が会社やチームの方針に自分の意見を主体的に反映する機会が生まれ、1人ひとりが会社やチームをつくっている実感(心理的所有感)に繋がる可能性があります。

以下の表は、株式会社NEWONEが、618名のビジネスパーソンに対して調べたエンゲージメント向上に何が相関するのかというデータ結果ですが、働く時間や場所を自己決定できるよりも、担う目標設定に関与できる、チームの方針や問題点に意見が言える、という行動の方が、相関係数が高い結果となっています。

※2023年12月株式会社NEWONEによる618名に対する調査結果

ここまでイノベーションの考え方や事例も紐解きながら、会社やチームにおける心理的所有感の醸成に繋がるポイントを考えてきましたが、次回のコラムでは、Manziniのデザイン理論や方法論について更に詳しく分析を行い、推せる職場やコミュニティのつくり方を見出していきたいと思います。

山野 靖暁

東京藝術大学大学院美術研究科修士。
大学卒業後、(株)シェイクにて企業の人材育成や組織開発のコンサルティングに従事。
その後、島根県海士町で地方創生や教育事業を推進。
現在はコミュニティデザイン・マネジメント領域の研究を行いながら、
国内外で企業や大学連携のプロジェクトを手がけている。

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