コラム

参画意識が主体性を引き出すPART2 

#キャリアオーナーシップ #推せる職場づくり #働きがい

今回はManziniのデザイン理論と方法論を更に詳しく分析し「推したくなる」コミュニティのつくり方について考えていきたいと思います。そこで事例として取り上げたいのが、同書でも紹介されているPark Slope Food Corp(以下PSFC)です。

前回のコラムでは「参加型デザイン」「ソーシャルイノベーションのためのデザイン」などの視点からデザイン理論研究を世界的に牽引してきたミラノ工科大学のEzio Manziniの著書「Design When Everybody Designs」を紐解き、デザインやイノベーションの視点から、どのように主体性を引き出すことができるかを考えてきました。

Park Slope Food Corp(PSFC)とは

今回はManziniのデザイン理論と方法論を更に詳しく分析し「推したくなる」コミュニティのつくり方について考えていきたいと思います。そこで事例として取り上げたいのが、同書でも紹介されているPark Slope Food Corp(以下PSFC)です。

PSFCはニューヨークのブルックリンで1973年に生まれたフードコープ(生活協同組合)で、生協といえば、日本でも馴染みのある方は多いかもしれません。日本の生協と異なる点としては、PSFCの会員になった人が店舗を利用できるというメンバーシップ制度です。

この事例は、1人ひとりが自分でコミュニティを作っている実感(心理的所有感)を持ち、他の人にも紹介したくなる(推したくなる)コミュニティをつくっていくためのアプローチとして興味深く、その点に触れながら紐解いていきたいと思います。

Manzini理論で読み解くPSFCの構造

まずManziniの理論的なフレームワーク(PIマップ)などを参考に、PSFCの会員が受けられるサービスと具体的な活動を整理したのが以下の図(筆者作成)です。



図の左上にあるようにPSFCのサービスを利用する主な会員は、有機野菜などのオーガニック食品を購入したい人で、図の右下に記載しているように、会員は毎月2時間45分の店舗運営協力(レジ打ちなど)をすることで、高級スーパーマーケットより安くオーガニック食品を購入できるというメリットがあります。

また店舗運営に入るタイミングで、会員同士で料理のレシピ交換、お互いの家事のサポート相談、共通の関心がある自主映画祭の企画など、自然発生的に会員同士の共創的な活動(図の右上)が生まれることで、コミュニティへの帰属意識や参画意識が高まり、自然と友人にPSFCを紹介していくような流れが生まれてきたと言われています。

 PSFCのWEBサイトでは、現在コミュニティには約1万6000人の会員がおり、店舗運営の75%程度が常勤の職員ではなく会員の参画によって行われていると公表されています。WEBサイトではコンセプト映像も紹介されており、リアルな会員の声にも触れることができます。

PSFC公式WEBサイト https://www.foodcoop.com

 コロナ禍を経て、現在もコミュニティが運営され続けており、既存のリソースを活かしながら 生かしながら新しい機能や意味を創造していくという点では、前回のコラムで述べたイノベーションの考え方にも通ずるものがあります。

主体性と協働性をデザインするということ

またデザインの理論や方法という視点から考えると、コミュニティに参加する人の価値観やニーズを満たすことができる(タテ軸の主体性が高めることができる)とともに、コミュニティの運営に協力しやすい(ヨコ軸の協働性が高まりやすい)ように活動全体がデザインされています。
 



そうすることで、図の右上にあるような会員同士の共創的な活動が自然に生まれやすくなっていると考えられます。

推せる職場ラボにおける実践と展望

そしてこのフレームワークは、我々が運営する推せる職場ラボの運営にも通ずる部分があります。

まず「自発」という視点から考えると、働きがいを向上させ、推せる職場をつくるための事例やヒントを広く共有することで、より多くの方が自発的に訪れたいと思えるコミュニティにしていきたいと考えています。

 とくに「推せる職場」とは一体どんな職場なのか?どのように「働きやすさ」だけでなく「働きがい」を高めていけるのか?具体的なプロセスや方法までイメージができるような情報発信を続けていきたいと思います。

 同時に「協力」という視点から考えると、現在実施している「推せる職場アクション宣言」「推せる職場特集」など、より多くの方が推せる職場ラボの活動に参画しやすくなるような機会を、様々な形でつくっていきたいと考えています。

推せる職場アクション宣言
https://oserushokuba.jp/action 

その先に、働きがいと働きやすさがのある「推せる職場」をつくりたいと考え、現場で実践する方がラボに自然と集まり、新しいプロジェクトや、研究活動が生まれる未来を想像しています。

業界の垣根を超えた共創によって、今までになかった価値が生まれるためには、どんなコミュニティが必要なのか。我々自身も問い続けながら、試行錯誤を続けていきたいと思います。

<参考文献>
Ezio Manzini (2015) “Design When Everybody Designs -An Introduction to Design for Social Innovation” MIT Press

山野 靖暁

東京藝術大学大学院美術研究科修士。
大学卒業後、(株)シェイクにて企業の人材育成や組織開発のコンサルティングに従事。
その後、島根県海士町で地方創生や教育事業を推進。
現在はコミュニティデザイン・マネジメント領域の研究を行いながら、
国内外で企業や大学連携のプロジェクトを手がけている。

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