コラム

人事は組織に不要なのか〜Bolt社のHRチーム解雇にみる、AI時代に求められる人事とは〜

#人事のキャリア #組織開発

「人事は不要」センセーショナルな言葉がSNS上を駆け巡りました。今、人事は何を問われているのか。求められているのか。その解に迫ります。

「人事は不要」——SNSを駆け巡った言葉

2026年5月、あるニュースがSNSを中心に拡散された。

「Bolt社、人事チームを全員解雇——人事はもはや不要の時代へ」

米国のフィンテック企業・Bolt社。コロナ禍には従業員数4,400名、企業価値110億ドルにまで急成長したスタートアップが、人事(HR)チームを廃止したというのだ。日本のビジネス界にもこのニュースは瞬く間に広がり、人事パーソンの間では戸惑いと不安が入り交じった反応が相次いだ。そして、この発言に賛成する人事職以外のビジネスパーソンの言葉も多く見られた。

Bolt社CEOが語ったこと


このニュースの発端は、Bolt社のCEOであるライアン・ブレスロウ氏のインタビューだ。同氏はこう述べている。

「人事(HR)チームをなくした。人事チームがあったんだけど、そのチームは存在もしない問題を作り出していた。彼らを解雇したら、それらの問題は消え去ったんだ。数人規模の『ピープル・オプス(People Ops:人事運用)』チームに置き換えた。これは純粋に、人事のオペレーションを効率化するためのものだ。大企業で同じことを勧めるわけじゃない。ただ、僕たちは今、またスタートアップのモードに戻っているんだ。」

この言葉が、「人事不要論」として急速に拡散されていったのである。

本当に人事は不要なのか?


結論から言えば、否だ。
ただ、この問いに正面から向き合うためには、3つの重要な論点を丁寧に整理していきたい。

論点①|ニュースの「本質」を読み解く

まず冷静に問い直したいのは、「そもそもブレスロウ氏は何を言ったのか」という点だ。彼の発言をよく読めば、「人事=不要」と断言したわけではない。伝えたかったのは次のことだ。Bolt社はコロナ禍の急成長期を経て、現在は再びスタートアップのフェーズに回帰しようとしている。そのフェーズでは、大規模な人事組織は必要ない——というシンプルな話である。しかも同社はフルリモートワークを採用しており、「職場の同じ部屋にいないから、発生し得ない問題がある」という文脈まで含んでいる。SNSで一人歩きしたのは「人事チームを全員解雇した」という事実の断片だけだった。その背景にある「スタートアップ回帰・リモートワーク・ピープルオプスへの絞り込み」という文脈は、ほぼ無視されてしまった。
「大企業で同じことを勧めるわけじゃない」——同氏自身もこう付け加えている。

論点②「使えない人事」が生まれる構造的な問題

一方で、ブレスロウ氏の発言が多くの共感を呼んだのも事実だ。それはなぜか。
彼はインタビューの中でこんな言葉も残している——「会社全体に『権利意識(もらって当然という甘え)』が蔓延していた」と。規模が大きくなると、人事部門はKPIのために「エンゲージメントスコア」を追い求め、現場から些細な不満を掘り起こしては「問題を作り出す」存在になりやすい。

日本でも同様の構図はある。
上場企業では、コーポレートガバナンスコードへの対応やダイバーシティ推進のために、本質より数字を追いかける人事が増えてきた。女性管理職比率を目標にする一方で、現場の組織課題には向き合えていない——そんな人事への批判は、決して少なくない。ブレスロウ氏の言葉が大きな共感を呼んだのは、多くの現場に「人事は何のために存在するのか」という根本的な問いが燻っていたからにほかならない。

論点③AIの台頭は「人事不要論」を加速させるのか


SNS上では「AIの台頭によりHRは必要なくなった」「オペレーションだけではHRの価値はない」という声も広がった。しかしこれもまた、早計な解釈だ。確かに、採用スクリーニングや労務管理・勤怠処理など、ルーティン業務のAI代替は急速に進んでいる。

しかしそれは「人事の仕事がなくなる」ことを意味しない。
「人事の仕事の中身が変わる」ということだ。

AIが得意なのは、データに基づいた反復処理や予測だ。一方で、人が持つ固有の価値観・感情・関係性の機微、あるいは経営戦略との連動や文化の設計といった領域は、人間の判断と介在が欠かせない。人事に求められているのは、AI活用によって生まれた「余白」を、より本質的な組織づくりに充てることではないか。

では、これからどんな人事組織が求められるのか

3つの論点を踏まえると、これからの人事組織に求められる姿が見えてくる。

それは「テクノロジーと人間を架橋できる人事」だ。

具体的には、次のような役割が期待される。第一に、AIツールを使いこなしながら人事オペレーションを高度化し、余剰時間を戦略的な仕事に振り向ける「テクノロジー活用力」。第二に、データを読み解きながら経営の意思決定を支援する「アナリティクス力」。そして第三に、AIには代替できない組織文化の設計・醸成や、個人のウェルビーイングに寄り添う「人間的なケアの力」だ。「オペレーションしかできない人事」は縮小していく。しかし「テクノロジーを使いながら、人間の本質に向き合える人事」の需要は、むしろ高まっていくだろう。

先進企業が示す「人事×テクノロジー」の新潮流


こうした流れはすでに、日本の先進企業でも現実のものとなっている。
2026年6月、メルカリは執行役員CTOの木村俊也氏が、CHRO(最高人事責任者)とCAIO(最高AI責任者)を兼務する体制へと移行した。テクノロジーのトップが人事領域を担うという、これまでにない人事のかたちだ。

メルカリが掲げるビジョンは「HR for an AI-Native Company」。働き方、意思決定・承認プロセス、組織構造、リソース配分——これらすべてをAI前提で再設計することで、AI-Native Companyへの変革を加速させるという。同じく2026年6月、SansanもCHROがCAXO(最高AIトランスフォーメーション責任者)を兼務する体制を発表した。メルカリとSansanは、出発点こそ異なる(一方はテクノロジー側から人事へ、もう一方は人事側からAIへ)。しかし両社に共通するのは「人事とAIはもはや切り離して考えられない」という強い認識だ。これは一部の先進企業に留まる話ではなく、今後数年で多くの企業がこの問いに向き合うことになるだろう。

まとめ|「人事は不要」ではなく、「人事は変わらなければならない」

「人事は不要」という言葉は、センセーショナルに響く。しかしその本質は、「今のままの人事では不要になる」という警告として受け取るべきではないだろうか。

Bolt社CEOの発言の意図は、組織のフェーズに合わない大きな人事組織は要らないという、至ってシンプルなことだった。しかしその言葉が多くの共感を呼んだ背景には、「現在の人事のあり方への不満」が根底にあったことも見逃せない。

AIの波が人事業務を大きく変えようとしているいま、問われているのは「人事の存在意義」そのものだ。テクノロジーを味方につけながら、人間にしかできない組織への貢献を果たす——そんな人事パーソンこそが、これからの時代に求められる存在となっていく。

変化を恐れるのではなく、変化を先取りする人事でありたい。


【参考】
・Bolt CEO Ryan Breslow インタビュー動画:https://www.youtube.com/watch?v=6lMbYsEvVDI
・株式会社メルカリ プレスリリース(2026年6月1日):https://about.mercari.com/press/news/articles/20260601_chrocaio/

推せる職場ラボ 研究員

この記事を書いた人

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株式会社NEWONE

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