意欲ある社員がイキイキと働ける職場には、どんな文化があるのか。“大切な人に誇れる会社”を本気で目指す、アトラエのカルチャーを探りました。
昨今、多くの企業が「働きやすさ」や「働きがい」を高めるために、制度整備や施策導入に取り組んでいます。離職防止、エンゲージメント向上、人的資本経営といった言葉が注目される中、「本当に意味のある変化とは何か?」が問われはじめています。
今回、推せる職場ラボが取り上げたのは、一見すると、職場づくりとは距離があるように見える角度から、組織の変革に挑む“越境者”の存在です。
お話を伺ったのは、情報セキュリティの部署に所属し、企業を“守る”立場にありながらも、組織開発という“育む”分野にも挑み続けるアトラエ社の小倉 勇人氏(以下、小倉氏)。
「守る」と「育む」という対照的な視点を行き来しながら見えてきた職場づくりの本質とは?
両方の軸を担うからこそ描ける“創りたい世界”に、推せる職場のヒントが込められていました。
組織文化に対する情熱と新たな視点
本日はよろしくお願いします。
まず、情報セキュリティ部署でエンジニアをされている小倉さんが、今回私たちのインタビューに答えていただくことになった背景を教えていただけますか?
小倉氏:一般的に情報セキュリティに関する話と組織カルチャーに関する話は無関係と思われがちですが、私や弊社にとっては両者は密接に関連しています。そういった点から私がお話させていただくことでアトラエらしさをお伝えできると思ったためです。
私が所属する部署では情報セキュリティの強化と、それに伴う情報システム全般の管理を担当しています。もともとは情報セキュリティ強化をミッションとして携わっていましたが、やればやるほど組織やカルチャーのことを意識するようになりましたし、むしろ組織のことが念頭にないセキュリティの施策こそ事故や事件に繋がるとまで思いはじめた程です。

一般的に、人事担当者や現場の管理職が組織づくりを担う企業が多いと思うのですが、情報セキュリティを担当する小倉さんが組織づくりに関われていらっしゃるのですね。
小倉氏:セキュリティに関するコミュニティでも私は組織カルチャーの話をすることが多いのですが、確かに話をし始めると最初は「なんで?」という顔になる人が多いですね。その組み合わせ自体が珍しいのかもしれません。
前提として、弊社では理想の会社づくりやビジョン実現に向けた取り組みは、職種を問わず行動できますし、それを制限するようなことは風土としてもありません。その土台には、理想の会社づくりに興味があったり、それらに向けた継続的な取り組みが必要だと思っていたりするメンバーが入社してくれること、そしてそれを十二分に発揮できる組織デザインを模索していることがあります。
情報セキュリティの仕事は、その会社の目指す方向性やありたい姿をみんなで実現できるよう、あらゆる面で支援したり手綱を引いたりする仕事だと思っています。ただ、制御の度合いが高すぎたり、それにより働きがいが毀損されたりして結局事件や事故に繋がるということも少なくないのではないでしょうか。
一方で、無邪気なことを言うと「自分の会社が好き」「より良い会社をつくりたい」と心から思っている従業員が多かったら、セキュリティの事件・事故は減りそうな気がしませんか?ルールや権限で制限することを否定しているわけではないですし、それらと両立できることだとも思います。
一見、遠回りのようではありますが、会社で働くみんなが自分たちにとっての理想の会社をつくり続けることが、結果的に組織カルチャーにも、情報セキュリティにも良い影響を与えるんだと気づきました。
会社全体で取り組むカルチャーづくり
もっと良い組織をつくりたいと思った時にどんなことから始められたのですか。
小倉氏:直近で最も力を入れていることは、月に1回社内で開催している「ATPF(エーティーピーエフ)」という取り組みです。
「ATPF」は、アトラエ的プレミアムフライデーの略で、2017年に提唱された「プレミアムフライデー」をもじったイベントです。当時のアトラエは人数も少なく普段からランチや飲み会でのコミュニケーションが活発で、金曜日にただみんなで飲みに行くというより、せっかくなら組織のことやビジョンを実現するために必要なことをメンバー同士で話す方がアトラエらしいよね、ということでスタートした取り組みです。
「ATPF」では、月に1回全員が2時間仕事の手を止めて、今でも組織について本気で対話しています。より直接的な営利活動に時間を使う判断もできる中での ATPF です。この ATPF は皆で育むものではありますが、より実りある会になるように貢献できないかを模索しています。
テーマの例を1つお伝えするなら、こんな会がありました。
アトラエに存在する制度や仕組みを“WHY”の部分から紐解き、「なぜこれらの制度が存在しているのか」「アップデートするとしたらどんな仕組みにするか」を全員が自分の言葉で話し合う会です。
アトラエには、一見するとすごくリッチだったり、誰にとっても良い会社だと誤解されるような制度や仕組みも多いですが、その根底には“意欲ある人が無駄なストレスなく活き活きと働き続けられる会社でありたい”という想いがあります。そのためにも、万人にとっての「働きやすさ」ではなく、意欲ある人たちにとっての「働きがい」が高められるよう考え抜かれています。

そういった背景までしっかり共有し、腹落ちする機会を大事にしていくことで、組織カルチャーの醸成に繋がると考えています。参加メンバーからも、社歴や職種、所属チームも関係なくランダムなメンバーで話せるからこそ様々な視点で展開される会話が新鮮で、初心に立ち返れたり、新たな視点を得ることができたり、非常に良い機会になるなどポジティブな声が届いています。
「なぜこれらの制度が存在しているのか」を話すテーマは、情報セキュリティとは直接的に関係ありません。ただ、これを通して自社のいいところや逆に課題を言語化したり、個人の問題から経営課題に昇華されたりしますし、それが回りまわって事件や事故を減らすことにも繋がるんじゃないかなというのが私の仕事における仮説でありテーマです。
意欲ある人たちがイキイキ働き、挑み続けられる組織であるために
セキュリティを取り扱うときに、他社と比べて自社はここが違うな、ここはこだわってやっているといったことはありますか?
小倉氏:そうですね。まず、アトラエとして大事にしたいことと情報セキュリティのベストプラクティスはとても相性が悪いと思っています。
一般的に「働きがい」を低くしてしまう要因の一つは情報格差だと考えています。やりたいことが明確にあるのに、思考したり判断したりするための情報がない、というのは致命的なこと。なので、個人のプライバシーに関わるような情報を除いて、基本的には文字通り全ての情報をオープンにしています。また現時点で弊社には役職がありません。そのため上司部下の概念もなく、結果的に各人がコトを進めようとする際に立ちはだかる、「情報がない」とか「他部署の人を巻き込んだら上司から怒られる」などはありません。
一方で情報セキュリティの役割は、重要な情報資産を守ること。
一般的には、役職者や権限を持っている人だけが指定の情報にアクセスできるという世界観だと思いますが、アトラエでは全員がほぼ全ての情報にアクセスできるようにしています。この、新卒でも経営層でも誰でも同じ情報にアクセスできる環境は、非常にリスクが高い。万が一、その組織の中で働いている人たちにリテラシーがなかったり、悪意をもっている方がいたりすると、絶対に成り立ちません。
ただ、アトラエでは、そのリスクを取ってでも実現したいビジョンがあり、創りたい理想の組織があります。そのためには、現場の全てのメンバーが圧倒的な当事者意識を持ち、経営層と同じ目線で意思決定ができ、適切な情報にスピーディにアクセスできる今の環境は欠かせません。
ルールで縛ったり、部分的にアクセスできない仕組みにする方が場合によっては簡単かも知れません。それも承知の上で、アトラエでは採用や組織カルチャーづくりに注力し、その上で、どうしても起きてしまうミス等はシステム側で検知し迅速にリカバーできる環境を構築することに重きを置いています。プライム市場に上場していることもあり要求されるガバナンス体制は非常に高いですが、できる限りアトラエ流に組み替えつつ、アップデートしていっているイメージです。
アトラエが大事にしているな。ここだけは守りたいということはありますか?
小倉氏:2つあります。1つは、意欲あるメンバーが無駄なストレスなく活き活き働き続けられること。もう1つは、それをみんなで創り続けることです。
私が新卒で入社したきっかけでもあるのですが、アトラエに今いるメンバーは、極端に言うと事業そのものに興味があるというより、アトラエが目指す“理想の組織づくり”に共感して、それを創りたくてここにいる、そんな人が多いのかなと思います。
なので、ここで言う「意欲」とは、明確な答えがない課題(=理想の組織や事業づくり・世界中を魅了すること等)に、何年かけてでも、自分の持てる力をすべて使って取り組み続けられることだと思っています。そして、そういった意欲あるメンバーが制度や仕組み、セキュリティを要因とした働きがいの低下により辞めてしまうような結果にさせないというのが、私のポリシーとして大切にしていることです。
「違和感」から生まれる対話——みんなで創る組織へ
組織のフェーズとメンバーの意見が一致しないとき、不満や違和感として表出することもあるかと思います。そうしたズレや意見の違いが出たとき、アトラエではどのように受け止め、向き合い、組織づくりに活かしているのでしょうか?
小倉氏:私は、メンバーから上がる「違和感」や「疑問の声」にこそ、組織をより良くしていくためのヒントがあると考えています。経費の使い方や社内チャットの作法など、組織のルールや慣習に対して意見が出ることは、むしろ歓迎すべきと捉えています。
例えば、ある若手メンバーから「日経新聞を読むことが推奨されているのなら、購読費を経費にしたほうがいいのでは?」という声があがったことがありました。アトラエには書籍購入や研修費用における固定ルールは現時点ではなく、自分自身が必要だと判断すれば基本的に申請可能なようにし、毎月末に社長も含めて各自が申請した経費の内容とその金額が公開されるようになっています。
その上で、「○○さんは自分が社長だったらどう判断する?」「そもそもなぜ日経新聞が推奨されているのか?」などの対話を重ね「なぜその設計になっているのか」という背景部分を丁寧に伝えていく組織カルチャーがあります。
こうしたやりとりを支えているのが、仲間への信頼です。「情報が足りない」というより「情報が多すぎる」という弊社の性質上もそうですし、誰かが正解を持っているというものでもないと思います。先輩が説き伏せるということではなく、人によって捉え方が異なる問題に対して皆で解決を試みるということを日々しています。そこには「どのメンバーもアトラエ流の選考を通じて、真剣にアトラエを選んでくれた仲間」という前提がありますね。
私たちは、「これが正解」とか「こうあるべき」といった固有の考えにとらわれたくないと思っています。だからこそ、違和感があったら声をあげてほしいし、そしてその声をきっかけに、みんなで常に考えていきたい。
アトラエには、そんな想いが日々の組織づくりの根底に流れているのだと思います。
職種や役割を超えて「良い会社をつくる」ことに真摯に向き合う小倉さんの姿に、“推せる職場”の本質が詰まっていると感じました。一人ひとりが会社の未来に主体的に関われる組織こそが、これからの働き方を切り拓いていくのだと、改めて実感しています。
