オフィスは「働く場所」を超えて、文化や価値観を育む場になり得る。共創型オフィスづくりの最前線を、ヒトカラメディアに伺いました。
推せる職場ラボでは、様々な企業や専門家の方にインタビューを行い、職場の働きがいを高める方法について研究、発信を行っています。
今回はオフィスづくりの専門家である株式会社ヒトカラメディアプランニング事業部の八塚裕太郎氏、江川郁美氏に、共創型のオフィスづくりについてお話を伺いました。
単に「働きやすい」オフィスをデザインするのではなく、オフィス移転やデザインを通じてどのように1人ひとりの「働きがい」を高めることができるのか、企業のフェーズや組織のあり方とオフィスづくりはどのような関係があるのか、具体的な事例をもとに紐解いていきます。
共創のためのオフィスづくりとは
本日はよろしくお願いします。まずお二人は普段どんなお仕事をされているのでしょうか?
江川氏:私はプランナーという職種で、オフィスづくりのご相談に対して、ヒアリングから図面作成、工事、納品までを一貫してお手伝いしています。最近は、お客様と空間づくりを一緒に考えるためのワークショップを担当することもあります。
2年前にオフィスづくりをお手伝いしたスタートアップ企業のお客様から、組織拡大に伴って再度ご相談を頂くなどリピートのお仕事も多く、その中で関わる組織の変化を感じることも、この仕事の面白さです。特にプロジェクトの初期段階で行うヒアリングや、ワークショップなどを通じてお客様と一緒に「何を実現したいか」を考えるところが好きです。
八塚氏:私はコンサルタントの立場で、プロジェクトチームにファシリテーターとして入り、ヒアリングからワークショップを実施しながら、プランの方針づくりを進行していく役割を担うことが多いです。
例えば、ある学校の教室のリノベーションプロジェクトでは、教室のあり方を生徒の皆さん、先生方と一緒に検討し、家具の組み立てから、色を塗るまで一緒に取り組みました。このようなプロセスを共有することで、空間への思い入れや愛着が湧いてきます。そんな体験をみんなで共有できるコミュニケーションを大切にしています。

(写真左側:江川氏 写真右側:八塚氏)
ヒトカラメディアによる「共創のためのオフィスづくり」の特徴を教えてください。
八塚氏:まず経営者や従業員の方が「どんなことを考えているのか」、現状を把握するためにアンケートやインタビューを行います。その上で、会社として踏み出したい次の一歩が何か、その一歩を空間設計からどのように実現していくことができるか、一緒に考えていきます。
お客様の中には社員数が増え、組織の課題が出てきているケースもあれば、5~10人規模で経営者が組織の状態や課題感を把握できている場合もあり、それぞれの企業状況に合わせて関わり方を変えていきます。
図①:株式会社ヒトカラメディア提供資料
八塚氏: 組織のフェーズとして社員全員でストレッチな目標に挑戦したいという時は、ビジョンやミッションからブレイクダウンして、「大切にしたい行動」や空間設計を考えます。一方、組織の悩みが深く課題が多い場合は、その現状を丁寧に把握し、まずは「今できることは何か」を考え、一緒に言葉にして共有することから始めます。
現場で生まれる共創と変化
最近は現場でどんなプロジェクトに取り組まれていますか?
江川氏:最近では福島県でお菓子や食品の卸売事業を展開する渋谷レックス株式会社のオフィスづくりを担当し、「チャレンジする風土の継承」をテーマにプロジェクトを進めてきました。まず2022年にオフィス1階をリニューアルし、チャレンジが生まれる土台を整えました。そして昨年、その土台を生かして更に先に進んでいくために、オフィス2階のリニューアルを一緒に考えてきました。
八塚氏:この会社は卸売業を軸足にしながら、自分達でお菓子の商品企画を行うなど、様々な試行錯誤を続けてきたチャレンジの風土があります。一方で日々の仕事が忙しくなると、どうしても目の前のタスク中心になってしまうため、改めて「チャレンジの一歩を踏み出す会社」であることを共有したいという想いがありました。
江川氏:ビジョンやミッションから引き上げていくというよりは、小さなチャレンジをどのように引き出していけるか、そのためにはどんな空間が必要か、ワークショップなどを通じて一緒に考えながら進めてきました。
渋谷レックス株式会社 オフィス風景①
プロジェクトの中で印象に残っている共創の場面を教えて下さい。
江川氏:会社の行動指針策定と浸透を進めるプロジェクトチームの方々と一緒に協働する場面です。オフィスでどんな行動が生まれて欲しいか、そのためにどんな空間があると良いか、私1人ではなく皆さんと一緒に考える機会は貴重であり、面白い時間でした。
例えば行動指針で掲げるYell(エール)を切り口に、お互いを応援する行動が生まれるのはどんな空間かを一緒に考え、1on1ができる部屋など、具体的な空間設計に置き換える議論を進めてきました。
渋谷レックス株式会社 オフィス風景②
八塚氏:やり取りを重ねる中で、それぞれが思っていることを聞き、段々とイメージするものが見えてくることが多いと思います。
江川氏:実際にプランを出す時もいくつか案を提案しながら話をすることが多いです。それを使って聞き取りをしながら、一緒に方向性を考えて可能性を広げていくことを大事にしています。
八塚氏:我々はファシリテーターのような役割でもあると思います。例えばエンジニアチームの開発の腕を上げるための拠点を作りたい時には、ワークショップを通じてエンジニアとして技術や能力が向上したと思うプロジェクトを思い出し、大事なポイントを一緒に抽出していきます。
どんな時に主体性が発揮できたのか、お互い言いたいことが言えていたのはなぜか、それぞれの経験の中にあるポイントや大切にしたいことを、現場の人の言葉遣いを残しながら一緒に目線合わせをしていきます。
そこから「集中できる空間」や「オフィスを自由に行き来しながら交流できる空間」などの具体的なイメージが生まれます。こうしたプロセスを重ねることで、出来上がった空間に対して1人ひとりの納得感も生まれやすくなります。
図②:株式会社ヒトカラメディア提供資料
これまで関わった企業や組織では、どんな変化が生まれていますか?
江川氏:例えば先程ご紹介した渋谷レックス株式会社では、お菓子のシェアができる「ハッピーバスケット」という取り組みが始まりました。お菓子の卸売業をされているので、もっとお菓子を身近に感じて欲しいという想いから、従業員の方とDIYでバスケットを一緒につくりました。
先日オフィスへ伺った時には、そのバスケットに装飾が加えられ、さらにこの取り組みを行う理由や意図、会社の行動指針との繋がりが言葉にされていました。日々の業務を含めて、変化が生まれ始めている様子を肌で感じました。
空間を”与えられるもの”ではなく、”自分たちで考え作るもの”であるという主体性を育むことができるという点からも、ワークショップはより良いオフィスづくりに欠かせない有効な手段だと考えています。
八塚氏:オフィスづくりの機会を通じて、組織の中でやってみたいことを企てる人が増え、どうすればその企てを実現できるか、チームで考える風土や環境が整ってくることもあります。そういう場面が自然に増えてくると、我々の仕事も成功したと言えるはずです。
働きがいを高めるために
働きがいを高めるオフィスづくりのポイントはどこにあるのでしょうか?
八塚氏:多くの組織で起こってしまいがちな残念なケースは、タスクをこなすことが仕事になり、何に向かってその仕事に取り組んでいるか見えなくなることです。そんな時に組織はどこへ向かっているのか、それに向けて自分達がどんな取り組みをすることが大事なのか、その為にはどんな場所が必要なのか、オフィスづくりを起点に考えることができると思います。
そうして自分の行動が組織にどんな影響を与え、お客様にどんな貢献をしているのか考え直し、繋ぎ直すことができれば、エンゲージメントが高まるきっかけになります。オフィスは会社全体が入る容器のようなもので、話しやすい場をみんなで作り、その結果が空間として形になることで、記憶にも残りやすいと思います。
またワークショップなど、オフィスづくりに至るまでの対話のアウトプットを残しておき、運用後に振り返りをしながら空間や運用をブラッシュアップしていくことで、更なる働きがいの向上に繋げられると思います。
江川氏:これからの会社を担っていく人を意図的にアサインし、オフィスづくりの機会に参画してもらうことも効果があると思います。そこから部署を超えた横の繋がりや、未来について考える機会をつくることができます。
例えばオフィスづくりの機会だけでなく、人事部が主催する研修と連動することで相乗効果が生まれる可能性もあり、様々なアプローチを模索していきたいです。

最後にお二人がこれから挑戦したいことをお聞かせ下さい。
八塚氏:役員の方々と現場の方々の理解が噛み合わない場面や、部署を超えた横の繋がりが不足している場面など、現場では様々な課題があります。そんな時に少しでも組織を滑らかにできるようなお手伝いや、モヤモヤしている部分をほぐし、言葉にするサポートをしていきたいです。
江川氏:オフィスをつくって終わりではなく、使い方や運用の工夫等、継続的な伴走支援については、まだまだ可能性があると思います。これからも関わる皆さんと一緒に考えていきたいです。
まだまだ沢山の可能性がありますね。本日はありがとうございました。
会社概要:株式会社ヒトカラメデイア
「都市」も「地方」も「働く」も「暮らす」も、もっとオモシロく!をビジョンに掲げ、「チャレンジングな企業が増えていけば、その地域にはポジティブな変化が増えるはず」の考えのもと、オフィス移転・リニューアル・不動産開発や運営支援まで、事業領域の幅を広げています。
