働き方の選択肢が広がるいま、従業員が気持ちよく力を発揮できる環境づくりは、多くの企業にとって重要なテーマです。
終身雇用型の業務委託やフルリモートなど柔軟な仕組みを取り入れるひとしずく株式会社。制度や社内コミュニケーションの工夫を通じて、新しい職場のあり方を形にしています。本記事では、その取り組みについてお話を伺いました。
「働く人が心から推したくなる職場」とは、どんな職場なのか?
「推せる職場特集」は、そんな問いから始まった、組織づくりのリアルを深掘りする企画です。
「推せる職場」とは、働きやすさと働きがいが両立し、思わず人におすすめしたくなるような職場のこと。
本特集では、そんな魅力あふれる職場づくりを実現している企業にインタビューし、取り組みや工夫をお届けします。
今回は、ひとしずく株式会社取締役 やまもとあさみ氏(以下やまもと氏)にお話を伺いました。
複業や業務委託など、多様な働き方が社会全体に広がる中で、どのように組織として働きがいを高めていくのか、制度設計や社内コミュニケーションの視点から、そのヒントを探ります。
ひとしずくの仕事

本日はよろしくお願いします。最初に、普段どのようなお仕事をされているかお聞かせ下さい。
やまもと氏:ひとしずく株式会社の取締役として、案件の責任者を務めるほか、経営、人事、採用など幅広く担当しています。ひとしずくはPR会社ですが、NGOやNPOなどソーシャルグッド、社会貢献をテーマとした案件を中心に手掛けています。
私は前職で約11年間、国際環境NGOに勤め、そこでは長く広報の仕事を担当していました。実は、ひとしずくの最初のパートナー様(クライアント)が前職の組織であり、弊社代表のこくぼとも、その当時出会いました。
前職を退職する際、広報の仕事が十分に行き届いていない非営利組織などの領域で、自分の経験を還元したいと考えていました。そうした私の関心と、ひとしずくの事業領域が重なり、これまでのご縁もあって、ひとしずくにジョインすることを決めました。
これまでは、環境問題に取り組むパートナー様とご一緒することが多く、IUCN-J(国際自然保護連合日本委員会)様の広報基盤構築や、ボルボ・カー・ジャパン様のサステイナビリティに特化したウェブサイト(現在は閉鎖中)のコンテンツ制作支援などを行ってきました。取締役に就任したのは昨年の12月です。
パートナー様は、どのようなきっかけでひとしずくにお仕事を依頼されるのでしょうか?
やまもと氏:代表や私と以前から繋がりのある方からのご相談、これまでご一緒したパートナー様からのご紹介、ホームページ経由のお問い合わせなど、様々です。
我々は「伴奏型」の後方支援である「PRコーチング*」というアプローチで、「答えを与える」のではなく、「答えをつくり出す」支援を行っています。
パートナー様と一緒に考えて実装するスタイルで、ご契約終了後も、ノウハウが社内に蓄積されていくよう取り組んでおり、その点をご評価いただくことが多いです。
例えばIUCN-J様では、寄付を集める体制づくりから始め、1年目はファン層の形成など広報の基盤づくり、2年目は組織として持続可能な形にしていくために、資金調達計画の策定をご一緒しました。そして3年目となる今年は実際の事業をより拡大していくための実行支援を行っています。
IUCN-J様は、環境問題において気候変動と並んで生物多様性を重要な課題と認識されています。昨今、ビジネスの業界でも聞かれるようになってきた「ネイチャーポジティブ」を日本でリードしていく存在になるために活動されており、私自身もやりがいを感じながらご一緒しています。
*PRコーチング:本来組織が持っている広報力や可能性を最大限引き出し、その組織なりの広報の答えをつくり出せるように支援すること。
多様な働き方の模索
御社では「終身雇用の業務委託」という働き方を推進されていると伺いました。具体的には、どのようなものなのでしょうか?
やまもと氏:業務委託の中には、数ヶ月で終了するスポット案件も多く、働き方が不安定になることへ、心苦しさを感じていました。代表のこくぼも、経営を続ける中で労働基準法の限界を感じ、安心して働ける環境を提供していきたいと考えていました。
そのため、ひとしずくでは基本的な会社の姿勢として、できるだけ長期でご契約いただけるパートナー様の案件をお引き受けするようにしています。それによって、雇用形態は業務委託でありながらも、可能な限りメンバーが安心して働ける場、仕事、収入を保障できるようにしています。
メンバーは、ひとしずくだけでなく、個人のやりたいことや活動を持っている人が多く、業務委託という働き方の方がフィットしている方が多いです。
その中でも、雇用主と業務を委託される側という固定的な関係ではなく、会社として「終身雇用の業務委託」という姿勢を示すことで、長いスパンで一緒に仕事をし、会社をともにつくっていきたいと考えています。
やはり、ひとしずくに関わることで、一人ひとりのキャリアやライフスタイルがより豊かになる場を整えていきたいと思っています。
新たな働き方を推進される中で、どのような変化を感じていますか?
やまもと氏:業務委託のメンバーが増える中で、より多くの方に会社に関わってもらえるようになりました。正社員が中心だった頃は、10名規模だった組織が、現在は約30名ほどに拡大しました。
その結果、お引き受けできる案件の幅も広がり、知見も多く蓄積されていると感じます。本当に多様なバックグラウンドを持つメンバーが集まり、それぞれの得意なことを生かすことで、強いチーム体制をつくることができていると実感しています。
働きがいを高める工夫

業務委託メンバーが多い中で、人材育成にはどのように関わられていますか?
やまもと氏:業務委託という雇用形態ではありますが、私たちはメンバーが「ひとしずくに関わる意義」を持てることを大切にしています。
そのために半期に一度の面談や、自由に相談できる「オープンアワー」を設け、メンバーがボードメンバー(役員)に相談できるような仕組みをつくっています。
月に一度の全社会議では経営状況や、案件進捗に加え、研修の機会も取り入れ、多くのメンバーが参加しています。このような積み重ねを通じて、エンゲージメント向上につなげています。
また、ウェブサイトをリニューアルする際には、会社のフィロソフィーやミッションをワークショップを通じて、みんなでつくりあげていきました。そのような取り組みが、少しでも働きがいに繋がっていれば嬉しいです。
ひとしずくのメンバーは、どこにモチベーションや働きがいを感じていると思いますか?
やまもと氏:やはり「ソーシャルグッド」という領域にコミットできることを魅力に感じている人は多いです。社会に必要なこと、社会課題解決のために活動する人々を応援できることは、他の会社では、なかなかできないことだと思います。
PR会社の第一線で働いてきたメンバーの中には、想いを形にするために、自分で事業をつくり活動しているアクティビストのような人もいます。
働き方の面では、パートナー様ともお互いをリスペクトしながら「伴奏型」で一緒に考えていくスタイルを大切にしているので、そこを働きがいに感じている部分もあると思います。
さらに、「希望制」を導入することもあります。例えば、子どもに関わる案件では、関心がある人を募り、チームを編成しました。
定期的な面談などを通じて、ボードメンバーも一人ひとりの興味関心や状態を把握し、人材育成の観点から、適切な経験を積めるよう意図的に業務をお願いすることもあります。
それぞれの関心に合わせて、一緒に働き方を考えているところに魅力を感じました。その他に社内コミュニケーションでは、どのような工夫を行っていますか?
やまもと氏:コミュニケーションツールとしては、フルリモート体制の中でSlackを使用しています。また、全社会議以外に案件ごとの定期的なミーティングも設定しています。
新しいメンバーの歓迎会も開き、みんなで雑談しやすい雰囲気をつくることで、メンバー間のコミュニケーションや提案が増えているように思います。コミュニケーションに対しては積極的なメンバーが多いので、その点は助けられています。
このようなコミュニケーションのベースを生かしながら、全社会議でも報告事項だけではなく、メンバー全員からの意見や提案を受け取る場づくりをしています。

今後の展望
今後挑戦していきたいことをお聞かせ下さい。
やまもと氏:社会課題は、すぐには解決できるものではなく、日々様々な問いが生まれます。我々もそこに向き合い、課題に取り組む皆様の地位向上を広報の力で後押ししたいと考えています。
ソーシャルの分野は、「ボランティア」というイメージが日本ではまだ根強いですが、そのような印象を少しでもプラスに変えていければと思います。
そして、各パートナー様とお仕事を共にする中で生み出していく社会的インパクトは何か、その点はまだまだ解像度を上げられると思っています。今後は、ひとしずくだからこそ生み出せる社会的なインパクトについて、さらに考え、形作っていきたいと考えています。
会社としても、多様なメンバーがいる中で、組織として一人ひとりの自己実現を応援しながら、メンバーが会社の外で得た学びや経験を、ひとしずくに還元する循環が生まれています。
そのような魅力を会社の「推しポイント」として積極的に発信をしていきたいと思います。
これからも挑戦は続くと思いますが、まさに今生まれている応援と還元の循環を大切にしていきたいですね。本日は貴重なお話をありがとうございました。
<ひとしずく株式会社 会社概要>
ひとしずくは、社会をよい方向に変えたいという想いを持って活動する組織や個人を、広報的側面から後押しするソーシャルグッドを専門としたPR(Public Relations)パートナーです。
さまざまな業界で社会的価値をつくり出してきた専門家がつどい、組織内の広報体制の基盤づくりから、パブリック・リレーションズによる課題解決力の強化、情報や物語を社会に届ける編集までを一気通貫で支援しています。
社会課題を解決に導くために、そして社会課題が生まれにくい社会をつくるために。
一滴のしずくがコミュニティや組織、社会を変える流れになることを信じて、動き出す人とともに挑戦し続けます。
・ひとしずく株式会社ホームページ
https://hitoshizuku.co.jp/
・talentbook企業ページ
https://www.talent-book.jp/hitoshizuku
