インタビュー

推せるチームをつくり、人事という役割を全うする

内閣人事局のチャレンジ

#推せる職場づくり #働きがい

国家公務員の若手離職が課題となる中、「働きがい」向上に向けた取り組みが加速しています。今回は、内閣人事局のご担当者にインタビュー。キャリア形成支援や対話の仕組みづくりを通じて、「推せる職場づくり」をどのように進めているのか、その実践からヒントを探ります。

国家公務員の若手離職が課題となる中、「働きがい」向上に向けた取り組みが加速しています。今回は、内閣人事局のご担当者にインタビュー。キャリア形成支援や対話の仕組みづくりを通じて、「推せる職場づくり」をどのように進めているのか、その実践からヒントを探ります。

近年、国家公務員の人事制度を取り巻く環境が大きく変化しています。特に、少子高齢化の進行や働き方改革の推進、民間企業の待遇改善などの要因が相まって、公務員の採用希望者が減少傾向にあります。また、若手職員による早期離職の増加傾向も見られ、公務員のキャリア形成に関する課題は深刻さを増しています。
こうした状況の中で、国家公務員の人事の中枢機能を担う「内閣人事局」の役割はますます重要になってきています。本稿では、実際に内閣人事局で国家公務員の人材育成・キャリア形成支援に従事している(2025年3月時点)、長野浩二氏(以下、長野氏)と上野友子氏(以下、上野氏)に、どのように現状・課題に向き合ってきたのかお聞きしました。

若手の離職への危機感からはじめた、キャリア形成支援

本日はよろしくお願いします。
お二人の役割は多岐に渡りますが、最もやりがいがあった仕事は何ですか?

長野氏:職員のキャリア形成支援の強化です。発端は若手離職の危機感です。実は国家公務員の離職率は、民間企業に比べたら高くはないのですが、以前と比較したら明らかに増加傾向にあります。キャリアの選択肢の多様化や、人材の流動化という日本の労働市場の変化も大きく影響していることは理解しつつも、離職がなぜ増えているのか?については、内閣人事局として着目しない訳にはいきませんでした。
内閣人事局で、離職意向の職員の意識について調査をしたところ、その理由として大きく2つあることが分かりました。一つ目は「長時間労働」です。
これについては、各省庁と協力しながら対策を続け、徐々に改善されてきています。二つ目が「働きがいを感じられない」という点でした。「働きがい」「やりがい」「成長実感」「貢献実感」とは、あくまで主観です。個々人の納得感が重要だと思いました。そう考えると、仕事と自分のキャリアとどう重なり合わせるか、どう結びつけるか、という視点が見えてきます。働きがいを高めていくうえで「キャリア形成支援」は大切なのではないかという結論にたどり着きました。

キャリア支援って意味がない?推進する難しさ

キャリア形成という組織にとっては新しい考え方を推進するのって、難しかったんじゃないですか?

長野氏:困難でした。例えば「マネジメント」は今や誰しもが大事なことだと分かっているので推進しやすいのですが、「キャリア」については、ネガティブ意識がある方もそれなりの割合で存在していると思っていました。「”キャリア”を考えることは独りよがりである」とか「余計に離職を促進するのではないか」という印象を持つ人もいたと思います。国家公務員は、「キャリアは組織が考えるもの」という意識が強かった気がします。そのような環境の中で、私たちは「キャリア」を考えることの意味や組織にとってのメリットなどを、霞が関にどのように伝えるべきかを徹底的に話し合いました。そこで具体策として注力することにしたのが、「個人と組織の対話」の推進です。今までは、組織側が職員(個人)をどう見ていて、どのように育てようとしているのかということを、本人に伝えることが少なかったと思っています。そうすると、職員から見ると、意図もなくただ異動させられ、組織の歯車でいる感覚になりがちです。

上野氏:これまで「キャリア」というと、「ポスト」や「昇進」など、主に外的キャリアの側面に着目してきたことに加えて、現在は特に世代間の考え方やキャリア観の違いもあり、推進することの壁は多くありました。今考えると、本当に頑張ったなと(笑)

ぜんぶ頑張ったと思えるくらい全力投球。
とにかくライブ感にこだわったキャリアデザイン研修

キャリア形成支援を推進する中で、最も頑張ったことはなんですか?

上野氏:しぼるのが難しいですね…なぜなら、ぜんぶ頑張ったから(笑)強いてあげるとするならば、キャリアデザイン研修、各省庁の人事担当者勉強会、キャリア対話ワークショップです。

長野氏:何をやるにも必ず障壁があり、その度に励ましあってきました。

なるほど。各企業でも取り組まれていますが、内閣人事局では具体的にどのようなキャリア研修を実施したのですか?

長野氏:国家公務員の働く意識にフィットした内容を考えました。~「キャリア」の一般的な考え方(Will/Can/Mustのフレームワーク等)についても表現の仕方を工夫したり、将来をデザインすることの重要性を理解しつつ現在をしっかり見つめるワークにより時間を使ったり、ジョブクラフティングの考え方を組み入れたりと、一から自分たちで考えました。また、研修講師も私が担当しました。私と上野とで、毎回アドリブのキャリア対話を実演してみたり、私自身のライフラインチャートを公開し、それをみて受講生と質疑応答をすることで、ひとりの国家公務員として、どう「キャリア」と向き合ってきたのかを伝えたりもしました。なにより、受講者同士の対話の時間を多くとりました。対話こそが「肝」だからです。結果的に、幹部候補の係長クラス約700名からポジティブな反応をいただきました(有益度92%)。(課長補佐クラス約700名には動画視聴の研修を実施。)

上野氏:国家公務員は、希望している業務をずっと担当できるというわけではなく、すべてが国家国民への貢献に繋がるという想いで、任された仕事を精一杯頑張るということもあります。やりたい、やってみたいという役割を担えたとしても、いずれ人事異動があります。偶然の出会いから新たなキャリアが拓かれることも多く、それも非常にやりがいですが、将来の自身のキャリアを見据えることが難しかったりします。だからこそ、目の前の仕事を改めて見つめ直したり、自身と仕事の関係、部内外の様々な関係者や組織の視点で自分自身を捉え直すという内容を研修のなかに取り入れました。具体的には、今までのキャリアで自己理解を深めた上で、どのような知識やスキルを身につけ、今それらがどのように活かされているかを言語化しました。そうすると、受講生から“これまでを振り返ってみると、今の仕事の尊さが分かった””意識したことがなかったが、キャリアに繋がりがみえて自信になった”というコメントがあり、その反応がとても嬉しかったですし、研修を企画した立場から、自信にも繋がりました。

これからキャリア研修を推進するときに大事になってくるのは、パッケージをそのまま導入、ではなくてその会社の特徴を取り入れていたり、受講生の環境を理解している方がファシリテーションしたりするキャリア研修かもしれませんね。

チームづくりは、上意下達ではなく、相乗効果。

チームをつくるうえで、大切にしていることは何ですか?

長野氏:チームメンバーで、「なんのためにやるか」という想いをひとつにすることです。そこさえ合意できていれば、運営においては、メンバーの判断を信じて臨機応変に対応するようにしました。

上野氏:個人的には、越境が大事なのではと感じています。外に出るからこそ、自分や自分の組織を客観的に見ることができて、これまで見えてこなかった課題が分かると思っています。外の世界を知ることで、自分の職場の良さに気づいてほしいなという願いもあって。なので、私もよく部外の勉強会やコミュニティなどに参加して、知見や情報を集めて、仕事に還元することを意識しています。

長野氏:キャリアデザイン研修の受講者アンケートでとても印象的なコメントがありました。

(実際のコメント)

● 内閣人事局の上司・部下の関係が良好でなければ、展開できない研修。すばらしい職場環境を作られている方々だということが伝わってきました。

● 内閣人事局と長野さんのチームなしには成立しない、すばらしい研修でした。国家公務員も捨てたものじゃないかもと思えました!

このコメントを読んだ時、本当に嬉しかったし、メンバーに感謝しました。実行してきたチーム作りも、これで良かったのではないかと思えました。

素晴らしいコメントですね!きっと、研修を通して運営側の想いが届いたのでしょうね。

長野氏:推せる職場ラボで問われている、「自分の組織を他者に推薦できるか?」という視点はとても大切だと思います。チームメンバー同士の関係性づくりにおいて、状況によって変化させる必要はありますが上意下達で指示に従うだけのスタイルではなく、上下関係なく、お互いに高めあう相乗効果を重視することが重要だと考えています。そうすれば、イノベーションも自然と起こってくると感じます。

信念をもって進んで、叶ったらまた新しい課題に出会う

同じ立場にいる全国の人事の皆様に、メッセージをお願いします。

長野氏:これまでお話した施策は、上野と私の2人だけでやってきた訳ではなく、チームメンバーや、内閣人事局、各府省関係者が共に走ってくれたことが大きかったです。特にチームメンバー一人ひとりが前向きに受け止め主体的に取り組んでくれました。どのような取り組みもそうだと思うのですが、人事の取り組みは、ひとりやふたりでは成し遂げられません。みんなでやるには、想いを持って、考えをお互いに共有することが欠かせません。自分たちが”推せるチーム”になって取り組むことが結果的に良い施策につながるのではないでしょうか。

上野氏:信じれば、できます。信念をもってやっていればいつか必ずかなうし、試行錯誤して進んだ先に、また新たな課題に直面する。人事という仕事はその繰り返しだと思います。なかなかすぐに、そして目に見える成果も見えにくいので、信念を持ってほしいです。

長野氏:推進する側が信念をもって挑まないと共感者も出てきません。本気で取り組まないと本当のことが見えてこない気がしています。

困難な道を歩まれたからこそ、お二人の軽やかさが感じられるとてもさわやかなインタビューでした。内閣人事局の取り組みが、国家公務員のキャリア形成の新たな道を切り拓く鍵となることを祈るばかりです。

※本記事は、2025年3月14日にインタビューしたものです。
※内閣人事局は、「キャリアオーナーシップ経営AWARD2025」(実行委員長:田中研之輔 法政大学教授)において、優秀賞/審査員特別賞を受賞されました。

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