「well-working 労働にまつわる社会課題をなくし、誰もがその人らしく働ける社会をつくる。」をミッションに掲げ、急成長を続ける株式会社SmartHR。同社は2024年7月、組織と事業の拡大に合わせ、創業以来のバリューを刷新しました。
新バリューは単なるスローガンではなく、「競争優位性を作り続けるための行動指針」として定義されています。インタビューの前編では、3つのバリューの浸透プロセスに迫りましたが、後編となる今回はバリューの1つである「象(ためらう時こそ口にしよう)」に着目。人や組織の前向きな変化・成長を促す「フィードバック文化」のつくり方について考えます。
お話を伺ったのは、同社 人材・組織開発部 人材開発部の渡邊 明日実さん(以下、渡邊)。全社員を対象としたフィードバック研修の実施から、現場への定着を見据えたリアルな試行錯誤の裏側を紐解きます。

共通言語をつくる全社研修
まず、2024年に全社員を対象とした大規模なフィードバック研修を実施された理由や、その背景をお聞かせください。
渡邊:
弊社は、2024年にバリューが刷新され、同時期に2030年に向けた事業戦略が策定されました。その計画や目標を見た時、人事としても「これは前人未到の、かなり高い山だな」と感じたんです。
この高い山を登り切るためには、すべての社員が継続的に成長し、より高い成果を出していくことが必要です。その成長の一助になると考え、全社員を対象としたフィードバック研修の実施を決めました。
お互いに「ここが良いよね」「もっとこうすると良くなりそう」という意見交換が活発になれば、成長スピードが上がり、結果として働きがいも高められる。「互いに高め合う文化をつくりたい」という強い想いからスタートしたプロジェクトです。
研修企画から実施に至るプロセスで、特に意識されたことは何ですか?
渡邊:
まずは「なぜ私たちがフィードバックを重要視するのか」について共通認識を持つこと。その上で「フィードバックとは何か」について共通言語をつくることを意識し、2.5時間の研修を企画しました。経営層から、マネージャー層、メンバーへと順番に実施し、約10ヶ月かけて全社員が参加しました。
また、研修講師は人事だけでなく、マネージャー層からも募集したんです。現場のマネージャーが講師を務めることでメッセージ性を強め、中長期的なフィードバック文化の浸透を目指しました。

実際の研修で使用されたスライド資料
研修内容については、どんな工夫をされましたか?
渡邊:
研修で扱うケーススタディは、人材開発部内で何度も議論を重ね、SmartHRの日常で実際に起こりうる「あるある事例」を用意しました。
例えば、「同僚がオーナーを務めるプロジェクトで、情報共有に課題があり動きづらいとあなたは感じています。あなたならどうフィードバックしますか?」といった設定です。
このようなお題に対して各自で考え、ロールプレイングで実際に伝え合うワークを行いました。研修中はオンラインチャットを活用し、受講者がリアルタイムで感想や疑問を投稿できるようにしました。
ロールプレイング後に、参加した社員から「伝える難しさを痛感したけれど、まさに自分に必要な内容だと思った」という声があがったことは、とても印象に残っています。
具体的なフィードバックの方法について、どのような内容を共通言語とされたのでしょうか?
渡邊:
具体的なポイントとして、主に2つを共有しています。
1つは「ポジティブとギャップ(成長につながるフィードバック)の比率」です。明確なルールではありませんが、目安として、「ポジティブなフィードバックを9割、ギャップを1割」というバランスを推奨しています。
日頃から「あなたのここが素晴らしい」「この貢献に感謝している」というポジティブな声掛けが積み重なることで、1割のフィードバックが、信頼関係の中でしっかり届くようになると考えています。
もう1つは、「I(私)メッセージ」の対話です。「あなたはここがダメだ」というYou(あなた)を主語にしたメッセージではなく、「あなたのこの行動は、私(I)はこう感じた」「わたし(I)ならこの方が動きやすいと思います」という事実をベースに、自分の価値観を押し付けずに、自分の感じ方を伝えること。これによって、相手の納得感や受け取り方は大きく変わります。

フィードバックを組織文化にするための試行錯誤
全社でのフィードバック研修は、他の人事施策とも連動しているのでしょうか?
渡邊:
はい、特にオンボーディング施策との連動は強く意識しています。
まず、入社3日目という早い段階で「フィードバックのオリエンテーション」を実施します。ここではスキルよりもマインドセットに焦点を絞り、「フィードバックはあなたの人間性を否定するものではなく、成長のためのギフトである」という共通認識をつくります。
そして入社後3ヶ月が経過し、現場に慣れて課題感も見えてきたタイミングで、フィードバック研修の「基礎編」を全員に受講してもらいます。
またチーフ(課長クラス)以上の役職の社員には、「応用編」として難易度をあげた研修をデリバリーしています。評価面談などで実践的に活かせるよう、四半期評価の時期に合わせて年4回実施しています。
カルチャーの定着を数値化するのは難しそうですが、フィードバック文化の定着度は、どのように測っているのでしょうか?
渡邊:
どのように定着度を測るかは私たちも試行錯誤を続けています。その中で1つのアプローチとして、マネージャー層以上を対象に、定量調査を実施しています。
具体的には、マネージャーの被評価者であるメンバーに対して「あなたのマネージャーは普段どのくらいフィードバックをしてくれますか?」とアンケートを取り、「ポジティブフィードバック」「ギャップフィードバック」「フィードバックの受け入れ力(コーチャビリティ)」の3項目を10点満点でスコア化しています。
そのスコアとメンバーからのコメントをもとに、それぞれのマネージャーのフィードバック傾向をまとめ、本人にレポートとして報告しています。
この調査は過去2回実施しており、2回目では全体的にスコアが向上しました。マネジメントが普段の業務の中でフィードバックに意識して取り組んでいる状況を数値から読み取ることができました。
自由記述欄にも「あの時の◯◯さんのフィードバックのおかげで成果が出せました」といったコメントが多く、研修を起点に現場への浸透が着実に進んでいると感じます。
フィードバックが「文化」として現場に定着するために、最も重要なポイントは何だと思われますか?
渡邊:
「ソフト」と「ハード」の両輪が揃うことだと考えています。
ソフト面では、経営層やマネージャー層から、取り組みの重要性を継続的に発信し、自ら体現することです。実際にCEOの芹澤をはじめ、経営層にも研修を受けてもらいました。
トップが率先して体現することで、現場の共感や納得感が生まれ、定着につながります。
ハード面では、人事制度の行動評価(バリュー評価)にフィードバックが組み込まれていることです。このソフトとハードの両輪が揃うことで、社員も会社の本気度を感じ取ることができます。
また、「フィードバックのスキルは、どこに行っても通用する汎用性の高いものであり、あなた自身のキャリアにとってもプラスになる」というメッセージも伝え続けています。
会社視点だけでなく、社員一人ひとりのキャリアや働きがいと結びつけることが、共感を広げる鍵だと思っています。

フィードバック文化からマネジメント強化へ
フィードバック文化が根付き始めている中で、今後さらに強化していきたい取り組みを教えてください。
渡邊:
プロジェクト始動から約2年が経ちますが、弊社は「毎年違う会社にいる」と感じるほど変化が激しい組織です。今の施策も、立ち止まらずに継続的な改善が必要だと考えています。
フィードバックはあくまでコミュニケーション手法の1つであり、それだけですべてが解決するわけではありません。時にはティーチングやコーチングも必要です。今はフィードバックを入口としながら、より広範なマネジメントスキルを伸ばすための「階層別研修」の整備を進めています。
マネジメントをテーマにした社内コミュニティの運営や、eラーニングなども組み合わせながら、マネージャーが孤独にならず、経験ベースで学び合える環境をつくっていきたいです。
組織が拡大し、日々忙しい環境の中でも、一人ひとりが成長を実感でき、「マネジメントが強い組織」へと変化させていきたいと考えています。
人事制度とカルチャーを両輪で回しながら、社員一人ひとりが成長を実感できる「強い組織」をつくるための挑戦が、これからも続いていくのですね。
本日は、全社研修を起点に現場へ定着させるための具体的なアプローチなど、多くの学びがある時間でした。貴重なお時間をいただき、ありがとうございました。
バリュー刷新の背景とプロセス
SmartHRが7つのバリューを「光」「偉業」「象」の3つに刷新した背景には、組織拡大に伴う課題と、半年以上にわたる経営陣との議論がありました。刷新のプロセスや社員への浸透の取り組みについては、前編でご紹介しています。ぜひこちらからご覧ください。
<株式会社SmartHR 会社概要>
2013年1月23日設立。2015年11月にクラウド人事労務ソフト「SmartHR」を提供開始。勤怠管理・給与計算を含む労務管理をペーパーレス化し業務効率化を叶える機能にくわえ、蓄積された情報を活用し組織戦略を支援するタレントマネジメント機能を提供。さらに、外部システムとの豊富な連携や、アプリストア「SmartHR Plus」を通じて、幅広い顧客ニーズに対応したサービスを提供しています。
SmartHRは「労働にまつわる社会課題をなくし、誰もがその人らしく働ける社会をつくる」というコーポレートミッションのもと、働くみんなが使いやすいサービスで、企業の生産性向上に貢献します。
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